東京都医学総合研究所の研究グループは,熊本大学,昭和大学,米国ワシントン大学らとの共同研究により,脂質を分解する酵素ファミリーの生理的役割に関する研究を通じて,肥満の新しい調節機構を解明した(プレスリリース)。これは,脂肪細胞から分泌される2種の脂質分解酵素がそれぞれ肥満を改善または促進することを初めて見つけたもの。
メタボリックシンドロームの病態基盤であるインスリン抵抗性は肥満に伴うことが多く,組織内に脂質が過剰に蓄積することが,脂肪毒性により細胞内ストレスや慢性炎症を引き起こし,インスリン抵抗性の要因となる。脂質代謝の異常は肥満,高脂血症,インスリン抵抗性の病態に密接に関与することがわかっているが,その全体像は十分理解されていなかった。
研究グループは,脂肪食を与えて肥満になったマウスと通常食で飼育したマウスの脂肪組織における遺伝子発現をマイクロアレイ(発現遺伝子の網羅的解析)により比較し,肥満後に発現が誘導される脂質分解酵素を包括的に探索した。その結果,2種類の分泌性ホスホリパーゼA2(PLA2G5,PLA2G2E)が肥満マウスの脂肪細胞に著しく発現誘導されることを見出した。
そこで,この2種の脂質分解酵素の肥満における発現誘導の意義を解明するために,それぞれの遺伝子欠損マウスを用いて,メタボリックシンドロームの表現型解析を行なった。
その結果,研究グループは,脂肪細胞から分泌され肥満を調節する分泌性ホスホリパーゼA2(メタボリックsPLA2)を初めて同定した。これまでに分泌性ホスホリパーゼA2は,炎症細胞から分泌され,細胞膜のリン脂質から脂質メディエーター)を動員して炎症の増悪に関わるものと考えられてきた。この発見は,本酵素ファミリーによるリポタンパク質代謝の生理的意義を初めて解明したと同時に,肥満の新しい調節機構を提示するもの。
この研究成果は,近年増加の一途を辿る肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームの新たな診断法や治療薬の開発につながることが期待される。