東北大学は,同大ニュートリノ科学研究センターの地球ニュートリノ観測技術と,東京大学地震研究所で開発が進められている火山のミュオグラフィ技術を融合することで,地球内部を透視する地球ニュートリノグラフィに使える可能性のある反電子ニュートリノ方向検知技術を見出した。
地球内部の放射性物質を起源とする反ニュートリノ(地球ニュートリノ)は,50年以上前からその存在が指摘されており,2005年に東北大学が世界で初めて観測に成功し,2011年の結果では地球の熱源の約半分が放射性物質起源であることを実測で証明するなど,地球科学の理論に対して制限を与えることに成功した。
また,宇宙線に含まれる素粒子ミューオンを用いた固体地球のイメージング(ミュオグラフィ)は,東京大学地震研究所で2006年,世界初の実証が成されて以来,世界の活火山でミュオグラフィ観測が行なわれ,山体内部に潜むマグマの形成を視覚的にとらえるいわゆるレントゲン写真撮影において数々の成果が挙がっている。
しかし,地球ニュートリノは地球全体をも簡単に通り抜ける事が出来る高い透過性を持つ一方,その到来方向検知が出来ないという原理的問題があるす。またミューオンは透過距離が岩盤にして数kmと限られてしまうので,火山浅部より深い地球内部をイメージングすることは出来ない。
研究グループは,地球ニュートリノ観測で用いる液体シンチレータにリシウムを添加することによって逆ベータ崩壊で放出される粒子の飛跡を従来より高い精度で決定できることに注目し,モデル計算、計算機シミュレーションを用いて飛跡決定精度を見積もった。
次に飛驒山脈の地下で測定された巨大な地震波低速度領域を巨大マグマだまりと仮定して,ミュオグラフィ解析技術を応用した計算機シミュレーションにより同手法の地球ニュートリノグラフィへの適用可能性を考察した。
その結果,地球ニュートリノの到来方向検知について,リシウムを添加した液体シンチレータ,高解像度撮像系,ミュオグラフィ解析技術の組み合わせにより,ミュオグラフィでは到達できない深度の地球内部をイメージングすることで新たな地球の観測窓を開ける可能性を秘めていることが分かった。
この技術を使うことによって,破局噴火を起こす様な巨大マグマだまり,地球形成過程で局在化したコア・マントル境界の巨大不均質構造など新たな観測窓を開ける他,原子炉モニタリング,天体物理学への貢献などの波及効果も大きいことが予想される。