NEDOプロジェクトにおいて,京都大学,日産化学工業はES細胞やiPS細胞などヒト多能性幹細胞の大量培養技術として,新規三次元培養法(三次元スフェア培養)の開発に成功した(プレスリリース)。
高品質のヒトES/iPS細胞を安定的に大量供給するために,従来の浮遊培養系では,継代時の細胞生存率の低さ,自発的細胞塊の融合および細胞塊サイズの不均一さという問題がある。また,培養容器中での細胞/細胞塊の沈降を防ぐためにスピナーフラスコ等を用いた撹拌操作を伴う三次元浮遊培養法の報告もあるが,ヒト多能性幹細胞が撹拌操作により発生する力学的ストレスに敏感なため,細胞ダメージを考慮すると実用的な大量培養法には適さないことが指摘されている。
これらの問題点を解決する為に研究グループは,〔1〕細胞解離酵素を使わない機械的処理による継代法を確立し,〔2〕機能性高分子であるメチルセルロース添加による自発的スフェア融合の減少を達成した。さらに〔3〕別の機能性高分子であるジェランガム添加による撹拌不要な三次元的浮遊培養法を開発した。
実際に200mlのガス透過性培養バックを用いて三次元スフェア培養を行なったところ,京大で樹立されたヒトES細胞株(KhES-1)を使った場合,培養5日目で1.4×108個の細胞を得ることができた。
今回開発されたヒト多能性幹細胞の三次元大量培養技術は,今後の再生医療等の実用化にとって不可欠となる,多能性幹細胞由来の心筋細胞を大量生産するシステムおよび神経系細胞の大量生産システムを実現するブレークスルーとなる技術。
さらにこのシステムは,従来の培養システムでは不可能であった心筋細胞や神経細胞等分化細胞の大量生産に適応可能であることから,実用的な培養機器システムへの適用により日本発の技術で世界的なシェアを獲得できる可能性がある。