国立遺伝学研究所の研究グループは,生まれて間もないマウスの大脳皮質の神経回路を可視化する方法を開発した。さらに,生きたまま脳の深部までとらえることのできる二光子顕微鏡の観察技術の改良も図った。これらの新しい技術を組み合わせることで,新生児大脳皮質の神経回路が成長する様子を直接観察することに,世界で初めて成功した。
ヒトの脳表面の大部分を占める大脳皮質は,哺乳類に特有の脳構造であり,複雑な「神経回路」によって,知覚や運動,思考,記憶などの高度な情報処理が行なわれている。この神経回路は大人の場合精密につくられているが,生まれた時は未熟でおおまかにしかできていない。赤ん坊の脳の神経回路が劇的に成長するプロセスやメカニズムは,適当な観察・解析技術がなかったため今までほとんどわかっていなかった。
今回の成果により,新生児マウス大脳皮質の神経細胞は突起を激しく伸び縮みさせながら,結合すべき「正しい」相手に向かって突起を広げていくことがわった。一方,遺伝子操作によって情報をうまく受け取れなくした神経細胞では,突起の伸び縮みの程度が異常に大きくなり,「正しい」相手の有無と関係なくランダムに突起が広がった。
今回の研究で,新生児の大脳皮質で神経回路が発達するときの正常な過程と異常な過程を直接観察することに初めて成功した。この新しいアプローチは,ヒトをはじめとする哺乳類の赤ん坊の脳の発達メカニズムの理解に大きく貢献することが期待される。
詳しくは国立遺伝学研究所プレスリリースへ。