理化学研究所、東京大学、青山学院大学と高輝度光科学研究センターは、放射光X線を利用してキラル物質の内部結晶組織をミクロンレベルで可視化する技術を開発した。
キラルはギリシャ語の「手」に由来することばで、手のように鏡に映すと左右が入れ替わる物質のことをキラル物質という。私たちの体を構成するさまざまな糖やアミノ酸もキラル物質であるため、利き手が一致して握手できることが正常な代謝にとって重要である。例えば、昆布などに含まれる天然のグルタミン酸ナトリウムは左利きでうま味を感じさせるが、人工的に合成すると左利きだけでなく苦味を感じさせる右利きのグルタミン酸ナトリウムも生成されてしまい、医薬品や食品添加物の用途では、有用な利き手だけを分離精製することが必要になる。ところが、分離精製に使用する試薬やフィルターもまたキラル物質であり、有用な利き手を連鎖をさせる必要があるため多大な手間とコストがかかる。
利き手がそろったキラル物質の純良結晶が育成できれば、この分離精製にかかる手間とコストを大幅に低減できるため、その技術の開発が期待される。しかし、水溶液にして右利きと左利きの割合を調べる従来の方法では、結晶内部のどの部分が右利きでどの部分が左利きか調べることができず、結晶成長機構の理解も進んでいなかった。
共同研究グループは、この問題を解決するため、大型放射光施設SPring-8で物質の利き手の違いを可視化するX線顕微鏡システムの開発に取り組んだ。その結果、三塩化セシウム銅(CsCuCl3)というキラル物質中に混在した右利きと左利きの内部結晶組織を3次元観察することに成功した。
本研究成果は、キラル物質の結晶成長機構の理解を通して、医薬品や食品添加物さらにはスピントロニクス材料の製造技術を飛躍的に向上させることが期待できる。さらに、長い間生物において謎とされてきた「生命ホモキラリティー」の起源にも新しい知見を与える可能性がある。
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