JSTら,赤ちゃんの「人見知り」行動が「近づきたいけど怖い」心の葛藤であることを明らかに

JST課題達成型基礎研究の一環として,東京大学 大学院総合文化研究科教授の岡ノ谷一夫氏と,JST戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「岡ノ谷情動情報プロジェクト」の元研究員である松田佳尚氏(現 同志社大学 特任准教授)らは,赤ちゃんの「人見知り」行動が,相手に近づきたい(接近行動)と怖いから離れたい(回避行動)が混在した状態,すなわち「葛藤」状態であることを発見し,さらに相手の「目」に敏感に反応することを明らかにした。

これまで赤ちゃんの人見知りは,単に他人を怖がっているのだと考えられてきたが,なかには快と不快の感情が混在している「はにかみ」を表す赤ちゃんもおり,「怖がり」だけでは説明がつかなかった。また,赤ちゃんが相手の何を怖がっているのかについても調べられていなかった。

研究グループは,赤ちゃん57名のアンケートによる気質調査を行ない,赤ちゃんの「人見知り」度合いと,相手への「接近」と「怖がり」という2つの気質の関係を調べた。その結果,人見知り傾向の強い赤ちゃんは,「接近」と「怖がり」の両方の気質が強く,「近づきたいけど怖い」という「心の葛藤」を持ちやすいことが推察できた。

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また,視線反応計測を用いて,人見知り傾向が高い赤ちゃんを調べ,母親と他人の顔映像では顔のどこに注目するかを調べた結果,母親でも他人でも,最初に目が合った時に「目」を長く注視すること,さらに,自分と向き合った顔(正視顔)とよそ見をしている顔(逸視顔)の映像では,よそ見をしている顔を長く観察することが分かった。

今回の成果によって,これまで知られていた,学童期に見られる人見知りの原因とされる「接近と回避の葛藤」が,わずか1歳前の赤ちゃんでも見られることが初めて示され,さらに「目」に敏感でありつつも直接目を合わせるのは避けるような情動的感受性が,人見知り行動の背景にあることが示唆された。

今回の発見は,赤ちゃんの「目の動き」を手がかりとした「心の葛藤」をモニターできるツール開発や,気質検査による個別能力開発への応用が期待できる。また,人見知りのメカニズムを知ることで,逆に人見知りを「全くしない」とされる発達障害の理解にも役立つ。

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