1.はじめに
様々な「モノ」がインターネットに接続されるIoTアプリケーションの進展に加え,ChatGPTに代表されるArtificial Intelligence(AI)技術が急速に普及しており,我々の生活における利便性が大きく向上している一方で,それを支える通信システムにはさらなる技術の向上が必要とされている。このような背景の中,スマート社会実現に向けた通信網の一つとして,第5世代移動通信システム(5G)が既に導入されており,さらにその先のBeyond5G(あるいは6G)と呼ばれるモバイルシステムが検討されている。この状況に起因して,光ファイバ通信に関しては,アクセスネットワークやデータセンタネットワークにおいて,これまで以上の情報伝送容量が求められることになる。これに伴い,データ伝送を行う光トランシーバに要求される伝送速度は2025年には1 Tb/sを超え,2030年代には10 Tb/sを超えると予想されている。
これまで,光通信システムには,III-V族化合物半導体であるリン化インジウム(InP)を用いた集積光素子やシリコン(Si)フォトニクス素子が利用されてきたが,10 Tb/s級のデータ伝送に向けては,現状,単一材料の光デバイスだけでは実現が困難であり,これらの多チャネル化により伝送容量を増大させることがアプローチの一つと考えられる。この手法は伝送容量増大の観点では有効と言えるが,素子の大型化,コストの増加,並列処理による消費電力の増大等が懸念される。例えば,800 Gb/s の伝送速度に対応するデジタルコヒーレント伝送向け小型・低消費電力光トランシーバを使用した場合でも,10 Tb/s 級伝送には,12 チャネル以上が必要となり,トータルの消費電力は200 Wを超えると試算され,抜本的なデバイスの低消費電力化が必要である。このように,従来の光通信システムを支えてきた単一材料光デバイスでは,高速動作と低消費電力の両立に限界が見えてきており,技術的なブレークスルーが求められている。
III-V族化合物半導体とSi フォトニクスのそれぞれの利点を組み合わせた異種材料集積光デバイスは,その有望なアプローチとして期待されている。単一材料光デバイスで主に用いられているInP系材料などのIII-V族化合物半導体は,高速・高効率動作に優れており,これを低コスト・高密度集積に優れるSi フォトニクスプラットフォーム上に配置することで,伝送容量の大容量化が可能となる。さらに,それぞれの利点を生かした設計を行うことで,単一材料光デバイスを超える高効率・低消費電力な動作が期待される。本稿では,異種材料集積の技術的ポイントとなるレーザ,変調器,受光器といったInP系能動領域をSi 導波路上に直接接合するプロセスについて紹介すると共に,これを用いて試作したInP系利得領域とSi 波長フィルタから成る異種材料集積波長可変レーザについて報告する。
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