月刊OPTRONICS 特集序文公開

THz波を用いた遮蔽物越しのシングルピクセル分光イメージング

1.研究背景

テラヘルツ(THz)波は,種々の物質を透過し,かつ試薬類が指紋スペクトルを有することから遮蔽物内薬物の非開披検査応用が期待されている。数あるTHz 技術の中でも,ここで報告する光注入型THz 波パラメトリック発生器(is-TPG)は,高い出力と広帯域周波数可変性を有するだけでなく,近赤外光へのアップコンバージョンを利用した検出法と組み合わせた分光システムは高いダイナミックレンジを有し,散乱等の影響も受けにくいことなどから他のシステムでは困難な厚手の遮蔽物越しでも測定できる特長を有する1)。加えて,近年では試薬の指紋スペクトル解析に機械学習を導入することで識別精度の向上を図るとともに,多波長発生によってリアルタイム分光識別も実現した。

一方で,常温動作かつ高感度のTHz カメラは現状存在せず,イメージングを行う際はサンプルのラスタースキャンが基本であり測定時間に課題があった。これはis-TPG固有の問題ではなく,THz波技術全般的な課題である。そこで近年,1 画素のディテクタでも画像取得が可能なシングルピクセルイメージングと呼ばれる画像構成法をTHz 波帯でも利用することが提案されている。シングルピクセルイメージングは,空間光変調器などで光に空間変調をかけ,変調パターンと単一検出器の強度の組み合わせから画像を構成する手法であり,カメラなどの二次元センサを不要とし,さらに入射光量を充分に取る事ができるためSN比の向上につながると期待されている。また,シングルピクセルイメージングでは圧縮センシングと呼ばれる画像構成手法を用いることで,測定時間の短縮が可能である。そのため,実用的なカメラの無いTHz 波帯のイメージング技術として最適であるとされ,これまでに様々な研究が進められてきた。しかし,これまでの研究はシステムのダイナミックレンジが狭いことやサンプルによる散乱・回折の影響を回避できないことから,遮蔽物越しのイメージングや実用的な分光イメージングは困難であった。一方でis-TPGは,前述の通り高いダイナミックレンジかつ散乱・回折の影響を受けにくいことから,我々はis-TPGとシングルピクセルイメージングを組み合わせることにより,これまで困難であった遮蔽物越しのシングルピクセル分光イメージングを目指した。

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