京都大学,豪シドニー大学,豪ニューサウスウェールズ大学らの研究グループは,ペロブスカイト太陽電池を空気中で保管することにより効率が向上する機構を包括的に解明した(ニュースリリース)。
ペロブスカイト太陽電池は,室温にて溶液プロセスでの作製が可能な次世代太陽電池であるとともに,高いエネルギー変換効率を示すことから注目されている。
ペロブスカイト太陽電池は,ワインやチーズが常温保存で熟成するように,空気中でしばらく保管することにより効率が向上することが経験的に知られている。太陽電池のエネルギー変換効率は短絡電流密度,開放電圧,曲線因子で決まるが,このうちの開放電圧と曲線因子が主に向上する。
これまでの研究により,空気中の保管によってペロブスカイト太陽電池を構成する有機材料が酸化ドーピングされることにより電導度が向上することが知られており,曲線因子の向上はこれにより定性的には説明することができる。しかし,開放電圧がなぜ向上するのかについては十分に理解されていなかった。
研究では,ペロブスカイト太陽電池の保管条件を変えて,効率の経時変化を追跡した。その結果,常温にて相対湿度20%程度の空気中で2日間保管することによって効率が一番大きく向上することを明らかにし,最高20.4%のエネルギー変換効率を得ることができた。特に開放電圧と曲線因子の向上が顕著だった。
研究グループはまた,電圧向上の起源を調べるため,光照射強度や温度を変えて素子特性を測定して電荷の再結合過程を詳細に解析した。その結果,空気保管前は電極界面での電荷再結合が支配的であり,保管後には界面での再結合は抑制され,ペロブスカイトバルク層での電荷再結合のみとなっていることを明らかにした。
次に,再結合機構の変化の由来を明らかにするため,ペロブスカイト太陽電池を構成する各材料の経時変化を一つずつ調べた。その結果,ペロブスカイト層に形成していた欠陥サイトが空気中での保管により修復され,25%程減少していることが分かった。
また,正孔輸送層は酸化ドーピングにより電導度が向上するだけでなく,HOMO準位が大幅に低下していることが分かった。これらの複合的要因により電圧が向上していることを明らかにした。
今回の成果より,さらなる高効率化のためには,材料のさらなる高純度化や界面での欠陥サイトを抑制する表面パッシベーション処理などが有効だと考えられるという。また,耐久性,安定性の観点からは,空気中での保管による経時変化に頼ることなく,初期から最適な電子準位,光電子特性を有した新材料の開発が望まれるとしている。