京都大学,TDK,大阪大学の研究グループは,スピンの流れ(スピン流)を用いた「スピン流論理演算デバイス」の室温動作実証に成功した(ニュースリリース)。
論理演算回路の更なる性能向上を目指し,情報輸送だけではなく論理演算にもスピン流を用いる試みがある。2007年に理論提案された「磁気論理ゲート(MLG)」と呼ばれるスピン流論理演算デバイスはその代表例となる。
従来のトランジスタを用いた論理演算回路では否定論理積(NAND)回路を構成するのに4個のトランジスタが必要だが,MLGデバイスは1個の素子で実現する。また,従来は6個のトランジスタが必要であった論理和(OR)回路もMLGデバイスの磁石の向きを切り替えるだけで実現可能となる。
即ち,MLGは切り替え可能な2種類の論理演算回路を1個の素子だけで構成できるため,素子の個数を大幅に低減することができ,高集積化,高速化,省電力化を同時に実現するほか,入力した値を記憶する「不揮発機能」も有している。
しかしデバイス作製の難易度が高いため,現在まで動作実証に至ったMLGの例はなかった。このMLGデバイスの一部を抜き取ると,その部分も排他的論理和(XOR)回路として動作するスピン流論理演算デバイスとなることが理論的に示されている。即ち,MLGデバイス実現の第一歩は,XOR回路デバイスの実現となる。
今回,シリコンをチャネルとしたXOR回路デバイスを作製し,その室温動作実証に成功した。シリコンは電子デバイスの主要材料であり,工学的に極めて重要となる。スピントロニクス分野においてもスピン寿命が極めて長いという特長を有しており,効率的にスピン機能を発現することができる好適な材料になるという。
今回の研究ではその特性を生かし,シリコンをチャネルとしたスピン流論理演算デバイスの室温動作に世界で初めて成功した。シリコン中のスピンが実際に論理演算の担い手となることを実験的に実証した初めての結果と言える。また論理演算の動作特性を電界ゲートによって変調することにも成功した。これは複数の論理演算デバイスの安定動作に極めて重要な技術になる。
今回の研究では演算した結果を電圧および電流で出力したが,スピンや光など他の物理量で出力することもできる。また,強磁性体の配置を工夫することで,MLGデバイスを含め,更に複雑で大規模な論理演算を実現することもできるという。
このことから,今回の成果はスピン流を用いた次世代論理演算デバイスの実現に向けて重要な第一歩だとしている。