分子科学研究所(分子研),総合研究大学院大学,生理学研究所(生理研)の研究グループは,金,銀,金銀合金ナノ粒子を用いて,光学顕微鏡によるマルチカラー高速高精度生体1分子イメージングを実現した(ニュースリリース)。
銀ナノ粒子は紫色の光に,金銀合金ナノ粒子(金と銀を1:1で混合)は青色の光に共鳴し,それらの光を強く散乱する。今回研究グループは,これまで単色に限られていた金ナノ粒子を用いた観察において,光の色(波長)によって散乱の効率が異なる特性を利用することで,金,銀,金銀合金ナノ粒子を見分けられると考えた。
そして3種のナノ粒子の散乱光を選択的に捉えるため,マルチカラー全反射暗視野顕微鏡を開発した。照明光学系は共鳴波長に合致した複数のレーザー(404nm,473nm,561nm)で構成され,3種のナノ粒子を同時に照明することができ,検出光学系にスリットを開いた分光器を用いることで,高速CMOSカメラの受光面の異なる部分に,各波長の散乱像を同時に結像できるという。
プローブには,直径30nmの銀ナノ粒子,30nmの金銀合金ナノ粒子,40nmの金ナノ粒子を用いた。今回の装置では,銀ナノ粒子は404nm,金銀合金ナノ粒子は473nm,金ナノ粒子は561nmのチャネルでそれぞれ高いコントラストの散乱像が得られた。得られた散乱像のシグナル/ノイズ比は高く,100マイクロ秒の時間分解能で2nm,1mm秒の時間分解能で0.6nmの位置決定精度を達成できた。
次に,開発した装置で生体分子の観察を行なった。まず,ガラス基板上に形成した人工生体膜中を拡散運動するリン脂質の様子を観察した。金,銀,金銀合金ナノ粒子で標識されたリン脂質の挙動を,100マイクロ秒の時間分解能で同時に追跡することに成功した。
また,膜上の金ナノ粒子と金銀合金ナノ粒子が近接して粒子対を形成する様子を観察することができた。金属ナノ粒子は,お互いが非常に近接すると相互作用して,共鳴波長が長波長(赤色)側へシフトすることが知られている。
開発装置に赤色(649nm)のレーザー光をさらに追加して計測したところ,粒子対の近接に伴って赤色の散乱光が増大する様子も捉えられた。粒子対が近接する時間は数mm秒程度であり,開発装置はこのような一過的な現象を詳細に捉えることを可能にした。
さらに,生体内で物質輸送を担うモータータンパク質キネシンの観察も行なった。キネシンの片足に金,銀,金銀合金ナノ粒子を結合させ,100マイクロ秒の時間分解能で動きを観察した。先行研究と一致する16nmの歩幅で,レールである微小管の上を直進する様子を捉えることができたという。
これらの研究成果により,モータータンパク質が働く仕組みの解明等,生物学分野への様々な貢献が期待されるとしている。