日立製作所は走査型プローブ顕微鏡向けに,物質に熱ダメージを与えることなく計測できる,新しい測定プローブによる計測技術を開発した(ニュースリリース)。
ナノレベルでの物質の組成や分子構造を解析する汎用的な計測装置の開発が求められている。従来,高機能材料を構成する物質を解析するためには,走査型プローブ顕微鏡を用いて測定プローブの先端に強いレーザー光を照射し,数十nm以下の光スポット(近接場光)を発生させ,物質の解析(ラマン散乱光検出)をな行っている。
しかし,物質表面への強いレーザー光の照射を回避しながら,熱に弱い有機物質や生体物質を高感度に解析することは困難だった。
そこで同社は,走査型プローブ顕微鏡において,金薄膜を裏面に有する薄膜シリコンから成る新しい測定プローブ構造を考案した。その結果,物質にレーザー光を直接照射せずに,物質の解析(ラマン散乱光検出)を行なうことが可能となった。
この技術は,シリコンから成る測定プローブの裏面に金(厚さ約50nm)の薄膜を付着させた後,FIB(Focused Ion Beam)を用いて,シリコンの厚みを,厚さ250nmに薄膜化する加工を施す。薄膜化したことにより,測定プローブの上方に照射したレーザー光(波長660nm)は,シリコン薄膜を透過し,プローブ裏面のシリコンと金の界面まで到達する。
測定プローブのシリコンと金の界面に対し,固有の角度でレーザー光を入射すると,金表面にプラズモン共鳴が起こり,入射した光は非常に高い効率で表面プラズモンに変換される。このプラズモンが測定プローブ先端まで伝播することで,近接場光スポット(径約50nm)を発生させることが可能となった。
今回開発した測定プローブによる計測技術を利用した実証実験では,金属基板上の有機物質(4-PBT)の積層膜を測定し,ラマン散乱光を高感度に計測することができた。
これらの技術を適用した結果,物質に直接レーザー光を照射することなく,生成した近接場光により,物質から発生したラマン散乱光を計測することができ,熱ダメージレスでの材料解析を実現した。今後同社では,この技術を最先端デバイスやナノレベルの機能材料を含む,製品における熱ダメージレスの組成・形状解析に必要な計測装置向けに実用化を図っていく。