1. はじめに
Beyond 5Gにおける超高速・大容量の無線通信の実現に向けて,無線信号波形を光ファイバーを用いて光信号として伝送する光ファイバー無線(Radio-over-Fiber)の技術が注目されている。無線信号の搬送波の周波数は100 GHz以上となることが予想されている。
図1に光ファイバー無線の技術に基づくBeyond 5Gで想定される信号変換の模式図を示している。光ファイバーにて構成されるモバイルフロントホールにおける一部無線区間の送受信アンテナ部分や,端末との間で無線信号の送受信を行うリモートアンテナ部分において,光信号と無線信号の相互変換を行う技術が必要となる。
光信号から無線信号への変換に関しては,単一走行キャリアフォトダイオ ード(Uni-Traveling-Carrier Photodiode:UTC-PD)などの技術が有望であり,光信号から無線信号への直接変換が実現されている1)。
一方,無線信号から光信号への変換に関しては,RFミキサーやショットキーバリアダイオ ードなどによって無線信号を電気信号へ一度変換した後に,光変調器を用いることで光信号へ変換するという方法が用いられている1~3)。
しかしながら,これらの方法は,機構が複雑であるとともに現状では装置サイズが大きく,高コストであるなどの課題もある。このような背景の下,著者らは,高性能な2次非線形光学材料である有機電気光学(EO)ポリマー4, 5)に着目することで,電気信号への変換を介することなく,無線信号から光信号への直接変換を可能にする無線-光信号変換デバイスの研究開発を行っている。
EOポリマーは,大きなEO係数(r33)を有するとともに,屈折率を考慮した光変調の性能指数(n3r)がニオブ酸リチウム(LiNbO3)などと比較して大きくなりうる。また,無機非線形光学結晶では,結晶格子振動によるテラヘルツ波(0.1-10 THz)の吸収損失のために使用可能なテラヘルツ領域が制限されるのに対し,アモルファス材料であるEOポリマーは,テラヘルツ領域の広範囲で吸収係数が比較的小さいことから6),数百GHz以上の高周波での利用が可能である。
また,EOポリマーは,スピンコートによる成膜が可能であり非線形光学結晶材料と比較して成膜性に優れるとともに,ドライエッチングなどの一般的な微細加工プロセスを用いた加工が可能であることから,量産化に向けたデバイス開発の面でも利点を有する。
EOポリマーを用いることで無線-光信号直接変換デバイスの実現が期待できるものの,EO分子を配向させるポーリングと呼ばれるプロセスが必要であることが,これまでデバイス作製を困難にしていた。そこで,著者らは,予めポーリングを行ったEOポリマー膜を転写する技術を開発することで,EOポリマーとシクロオレフィンポリマー(COP)などのテラヘルツ波低吸収損失材料を組み合わせたデバイス作製を可能とした7)。
さらに, EOポリマー膜の転写技術を用いることで,パッチアンテナアレイを有するEOポリマー光変調器(無線-光信号変換デバイス)の研究開発を進めている8)。本稿では,これらの内容について紹介する。