静岡大ら,シアノバクテリアから光化学系Iの特性解析

静岡大学,岡山大学,理化学研究所は,低エネルギークロロフィルdを有するシアノバクテリアAcaryochloris sp. NBRC 102871から光化学系I(PSI)単量体と三量体のそれぞれを精製し,分子特性を明らかにした(ニュースリリース)。

シアノバクテリアの光エネルギーを化学エネルギーに変換するPSIは,単量体,二量体,三量体,四量体をそれぞれ形成することが知られている。特に多くのシアノバクテリアは,単量体と三量体のPSIを持つ。

PSIには95個ものクロロフィルが結合するが,そのうち数個は低エネルギークロロフィルになる。この低エネルギークロロフィルは,PSIの単量体と三量体とでは分光特性が異なる。研究グループは,2023年にMBIC11017のPSI単量体と三量体の低エネルギークロロフィルdを分析した。

紫外可視吸収スペクトルにより低エネルギークロロフィルdが観測されなかったが,PSI三量体でのみ蛍光スペクトルによりわずかなピークが得られた。一方,先行研究により,さまざまなAcaryochloris種が低エネルギークロロフィルdを有する種とそうでない種に分かれることが報告された。しかし,この研究では細胞レベルの分析であり,低エネルギークロロフィルdがPSIに結合しているか不明だった。

研究グループは,低エネルギークロロフィルdを有するNBRC102871からPSI単量体と三量体のそれぞれを精製し,分子特性を明らかにした。精製されたPSI単量体と三量体は,ほぼ同じタンパク質組成であり,色素成分も同じだった。

紫外可視分光スペクトルを測定したところ,低エネルギークロロフィルに相当する吸収バンドが観測された。さらに,蛍光スペクトルを測定したところ,PSI単量体では767nm,PSI三量体では754nmの蛍光ピークが観測された。

興味深いことに,蛍光スペクトルの形が両者で大きく異なった。これらの結果は,PSIの単量体間相互作用の影響により,クロロフィルd周辺で構造変化が生じたことを示唆する。

NBRC102871で観測された吸収スペクトルの長波長成分は,MBIC11017のPSIでは観測されなかった。このことは,NBRC102871とMBIC11017の間で,PSIの光捕集戦略が異なることを示唆する。これは,多様な低エネルギークロロフィルdを有するAcaryochloris種の特徴となる。

研究グループは,この研究で得られた研究成果は,Acaryochloris種の進化を理解するうえで重要な知見となるとしている。

その他関連ニュース

  • 京大ら,ヘテロサーキュレンの合成と発光挙動を解明 2024年11月21日
  • 東北大ら,光合成を最適化するイオン輸送体を解明 2024年11月12日
  • 【解説】動物細胞ながら,光合成もできるプラニマル細胞とは 2024年11月11日
  • 静岡大ら,珪藻光化学のタンパク質間相互作用を解明 2024年11月07日
  • 東工大,分子の自発配向を利用した分極薄膜を開発 2024年10月31日
  • 帝京大ら,緑藻の群体増殖には光照射が必須と解明 2024年10月04日
  • 早大ら,光合成微生物で培養肉向け細胞培養機構開発 2024年10月04日
  • 東薬大,シアノバクテリアのストレス順応応答を発見 2024年10月03日