中央大学の研究グループは,円偏光した励起光の回る向きを変えた時の振る舞い(ヘリシティ依存性)で,異常ホール効果で生成する電流とスピンホール効果で生成するスピン流を区別できることを発見した(ニュースリリース)。
円偏光した励起光を金属にあてることで,金属を磁石にしたり,異常ホール効果を誘起したりできる。また,光をあてた金属では,励起光の振動数や振幅,偏光を変えることで,非平衡量子状態を制御できる。つまり励起光を変調するだけで,物質の種類を変えることなく状態を変えられる。
これまでの研究では,光をあてた金属のスピンホール効果が未開拓だった。光をあてた金属のスピンホール効果を励起光で制御できれば,スピン流を制御できるだけでなく,物質を変えずにスピン流を利用した応用への道が拓く。
研究では,金属としてSr2RuO4の有効モデルを使い,円偏光した励起光をあてた場合のスピンホール効果と異常ホール効果の理論を構築し,それらが励起光の振動数や振幅,ヘリシティを変えた場合にどのように変わるのかを理論的に調べた。
研究の結果,円偏光した励起光のヘリシティを変えると,スピンホール効果で誘起されるスピン流の向きは変わらずに保たれ,異常ホール効果で誘起される電流の向きは反転することがわかった。このヘリシティ依存性は光の振動数や振幅を変えても成立することもわかった。
さらに,スピン流と電流の異なるヘリシティ依存性が時間反転対称性の違いに由来していることを解明した。スピン流は時間反転で向きが不変に保たれ,電流は向きが反転する。また,右回り円偏光を時間反転すると左回り円偏光になるので,時間反転で円偏光のヘリシティが変わる。それらの事実を踏まえ,スピン流と電流の時間反転対称性の違いがヘリシティ依存性の違いの原因であると特定した。
今回,金属のスピンホール効果によるスピン流と異常ホール効果による電流が,励起光のヘリシティを変えたときの流れの向きの変わり方で区別できることがわかった。この性質は時間反転対称性に由来する普遍的な性質であるため,今回対象としたSr2RuO4だけでなく,他の金属でも成立する。
また,スピンホール効果や異常ホール効果だけでなく,その他の輸送現象でスピン流や電流を生成した場合にそれらが励起光の回る向きによってどう変わるか(光のヘリシティ依存性)で区別できる可能性が示唆される。
これにより,光のヘリシティを利用することで,電流はゼロでスピン流だけが流れる状況やスピン流がゼロで電流だけが流れるような状況を実現できる可能性がある。研究グループは,それを利用することで,スピン流や電流の片方だけが存在する状況で実現できる新しい現象の発見や応用への発展につながるとしている。