三重大学,茨城大学,沖縄科学技術大学院大学,東京農業大学,神奈川大学,神戸大学,中国科学院植物研究所,米南イリノイ大学は,米イエローストーン国立公園の酸性泉に棲息する紅色細菌の一種Rhodopila globiformis(ロドピラ・グロビフォルミス)の「膜タンパク質コア光捕集反応中心複合体の立体構造」をクライオ電子顕微鏡により可視化することに成功した(ニュースリリース)。
コア光捕集反応中心複合体(LH1-RC)は,光合成細菌が太陽光エネルギーを集め,光から電子へ変換し,作り出した電子を渡す役割を担っている膜タンパク質。
これまで立体構造が報告されている紅色細菌のLH1-RCでは,膜貫通領域をもたないチトクローム(Cyt)サブニット,あるいはCytサブニットの代わりにPufXと呼ばれる膜タンパク質をもっているものばかりだった。
この場合,ゲノム上のCytサブニット遺伝子の位置が,pufX遺伝子で置き換わっていることは知られていたため,2つの遺伝子の関連性は疑われていたものの,アミノ酸配列のレベルでは進化的に離れていることもあり,長年謎につつまれていた。
今回のコア光捕集複合体(LH1)は,Cytサブニットの末端に膜貫通部分が存在する初めての例。この膜貫通部分は,アミノ酸配列比較ではPufXに
近い関係性を示さないものの,複合体内での立体配置関係としては良く似ており,特に細胞外側ループ部分の構造はほぼ重ね合わせることができた。
この結果により,CytサブニットとPufXの進化的空白を埋められる可能性がでてきた。更に,発見した膜タンパク質γ様ポリペプチドは,バクテリオクロロフィル(BChl)aを持つケースではLH1-RCに組み込まれた初めての例となるという。
従来,γサブニットはBChl bをもつLH1-RC特有のものと考えられてきたので,これまでの常識を書き換えるものとなった。γポリペプチドと,今回発見したγ様ポリペプチドは同じような立体構造だが,アミノ酸配列には相同性がまったく見られない。
このことからロドピラ・グロビフォルミスのγ様ポリペプチドは,BChl aとBChl bのLH1複合体の進化的関連性を示すものであり,共通の祖先タンパク質が存在する可能性があることがわかったという。
今回得られた立体構造から,光捕集複合体の進化的な謎であった2種類の膜タンパク質の起源を示唆することが可能となり,これらの特徴を進化的に取り入れたことで,酸性雨のような環境下でも生き残れる戦略を取っていることがわかった。
研究グループは,酸性雨のような極限環境下でも高効率な太陽光エネルギー利用への貢献,環境保全への活用が期待されるとしている。