北海道大学の研究グループは,calix[3]pyrroleと呼ばれる環状化合物の合成に世界で初めて成功し,世界中で盛んに行なわれているポルフィリン合成における長年の謎を解明した(ニュースリリース)。
ヘムやクロロフィルに代表されるポルフィリン化合物は”生命の色素”とも呼ばれ,呼吸や光合成に欠かすことができない。この化合物は発見から100年以上にわたって研究されてきたが,「ポルフィリンは4つのピロールから選択的に生成し,ピロールが3つのものは全く見つからない」という,未だに解明されていない謎がある。
研究グループは,この謎を解く鍵を握るとされてきたcalix[3]pyrroleの合成に挑戦し,「カルボニルひも」と呼ばれる化合物を使って世界で初めて合成を達成した。
3つのピロールから形成されるcalix[3]pyrroleは,環のサイズが小さいために非常に歪んだ構造をしていました。そのため,ポルフィリン合成に使われる酸性条件下でひずみエネルギーに誘起される特異な環拡大反応を示すことがわかった。
驚くべきことに,酸性条件においてわずか10秒でピロールが6つからなる大きな環へと変化し,最終的には数時間かけてポルフィリンと同じ4つのピロールからなる環へと変遷することがわかった。
このひずみ誘起環拡大反応が,3つのピロールで形成されるポルフィリン類縁体の発見を妨げる原因となっていた。この発見は同時に,アニオン包接などの機能が知られる巨大マクロサイクルを合成するための環拡大反応という新たな手法の発見にもつながった。
この成果はポルフィリン合成における謎を解明しただけではなく,ひずみ誘起による環拡大反応という新しい化学反応の発見につながった。安定性と反応性は表裏一体の関係にあるため,酸性条件でのcalix[3]pyrrole のように,短寿命の化学種には有用な反応性があるかもしれないという。
さらに研究グループは,環拡大反応をどんどん繰り返していけば,未踏の巨大環状化合物を合成できる可能性もあるとする。巨大な環構造を持つポルフィリン類縁体は,複数金属イオンや小分子を取り込むことができるため,新たな機能性分子が多数生み出されるとことが期待されるとしている。