大阪大学,京都大学,独ブラウンシュヴァイク工科大学,独ビーレフェルト大学は,ワイドバンドギャップGaNとInGaNで構成する多重量子井戸構造半導体の光に対する複雑な応答を,自由空間の放射されるテラヘルツ電磁波を用いて解明し,その超格子を保護するGaNキャップ層の厚さ分布をナノスケールの精度でイメージングできることを証明した(ニュースリリース)。
ワイドバンドギャップ半導体InGaN/GaN多重量子井戸は,青色発光デバイスなどへの応用で広く研究されており,結晶内部で大きな歪による強い分極電界を内在し,光への応答が複雑であることがわかっている。また,表面には保護膜が形成されるため,その内部に埋め込まれたデバイスの物性を作製後に外部から観測することは難しい。
研究グループは,フェムト秒レーザーをInGaN/GaN多重量子井戸構造を内部に有する試料表面から照射することで,InGaN 量子井戸層に電荷(電子と正孔)を励起することで誘起される様々な超高速現象を,テラヘルツ電磁波放射としてとらえ,その電磁波の解析により,複雑なダイナミクスを解明した。
InGaN/GaN多重量子井戸構造では,相互の強い歪に強い電界が内在し,光が量子井戸に到達すると光電荷が生成される。光電荷が生成すると,①内部電界が遮蔽される時,②歪が緩和されるときに音響フォノンが生成され格子振動の衝撃波となって,表面に到達した時,③多重量子井戸がナノキャパシターの役割を果たして,井戸内で電荷が振動する時にテラヘルツ電磁波が励起され,自由空間に放射される。
その電磁波の波形は,量子井戸構造や励起に使う光の波長に大きく依存し,それらのテラヘルツ電磁波の波形を計測することで,上記の複雑な超高速ダイナミクスを解明した。
さらに電界遮蔽と音響フォノンによるテラヘルツ波放射の時間差を計測すると,表面に利用しているGaNの厚さが計測できる。実験の例では,GaNキャップ層の音響フォノンの伝搬に約18ピコ秒要した。この時間から厚さを算定すると,約180nm の層に対して,2次元的な厚さ分布を広い範囲で10nmの精度でイメージングが可能になるという。
研究グループは,これにより,ワイドバンドギャップ半導体多重量子井戸構造を利用した光デバイスの開発に貢献することが期待されるとしている。