理化学研究所(理研)らの国際研究グループは,RIビームの衝突によって生成した中性子過剰な高密度核物質の硬さの測定に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
「中性子星」は宇宙に存在する最も高密度な天体であり,太陽質量の約8倍以上の大質量星の進化の最終段階で起こる超新星爆発により生まれると考えられている。中性子星は,太陽と同程度の質量を持ちながら半径は約10kmしかないため,その中心部は1cm3あたり1兆kg(原子核密度の5~7倍)にも達する超高密度状態となっている。
中性子星の表面は原子核や電子からなり,内部に進むにつれて原子核が融けて中性子を主とする一様な高密度物質になると考えられているが,詳しい内部構造についてはよく分かっていない。一方で,昨今の重力波観測による研究により,中性子星同士の合体の際には金やプラチナなどの重元素が合成されることが分かってきている。
中性子星の内部構造は「状態方程式」で表される。状態方程式とは,物質を押した際にどのくらい硬いか,柔らかいかを示す式。同様に物質の状態も表し,例えば水の状態方程式は,温度と密度の違いによる氷・水・水蒸気といった状態の違いを示す。
そこで,研究グループは,加速器を使って中性子数を人工的に増やしたり減らしたりした質量数の異なる原子核同士を衝突させ,生成された高密度核物質の情報を持って放出される「荷電パイ中間子」を系統的に測定し,その結果を理論モデルと比較することで,中性子星内部の硬さを導き出すことにした。
研究では二つの系における荷電パイ中間子のエネルギー生成分布比の違いを輸送理論モデルと比べ,1.5倍原子核密度の中性子過剰な高密度核物質の硬さ(圧力)が(2±1.5)×1029気圧であることを導き出した。
この状態方程式は従来よりも高精度であり,中性子星の内部構造の理解にとどまらず,中性子星合体や超新星爆発における元素合成過程を数値計算する上で必須の情報だという。研究グループでは今後,より高密度かつ中性子のより多い原子核物質を測定することで,元素合成過程の詳細が解明されるものとしている。