東北大,岡山大の研究グループは,シロイヌナズナに強い光ストレスを与えると,膜の傷を蓄積した一部の葉緑体が大きく膨張し,そのような異常葉緑体だけが,生物が持つ機構である「オートファジー」に選び取られ,除去されるプロセスを解明した(ニュースリリース)。
植物が成長するために欠かせない光合成反応は,葉緑体と呼ばれる,植物細胞内の小器官で行なわれている。光合成は,太陽光のエネルギーを利用して行なわれるが,その一方で,葉緑体は,太陽光に含まれる過剰な光エネルギーによるダメージを常に受けている。研究グループは,光ダメージを受けた植物の葉の,オートファジーと呼ばれる機構で,葉緑体が積極的に消化されることを2017年に発見。今回の研究では,chlorophagy(クロロファジー)と呼ばれるそのプロセスの解明に挑んだ。
その結果,強い光ダメージを受けると,一部の葉緑体が大きく膨らむことを発見。葉緑体を取り囲む膜(包膜)がダメージを受けることで,葉緑体の中と外の浸透圧バランスが崩れてしまっていることが原因であることを証明した。また,時間変化を追った顕微鏡観察によって, 膨らんだ葉緑体だけが選び出され,液胞と呼ばれる不要物を消化する細胞内器官に運ばれる過程を捉えることに成功した。
これは,植物で観察されていたオートファジーのプロセスとは異なり,液胞の膜そのものが分解物を外側から包み込む「ミクロオートファジー」と呼ばれる現象に似た新しいプロセスであることが分かった。
この成果は,「オートファジーが壊れた葉緑体だけを選び取る何らかの仕組みを持っていること」を示すもの。今後詳細なメカニズムを明らかにすることができれば,オートファジーを制御し,植物体内での葉緑体の新陳代謝をコントロールすることで,環境ストレス耐性や作物生産能力の向上を図るための研究が発展する可能性があるとしている。