理科大ら,作物を短時間で透明にする手法を開発

東京理科大学,熊本大学,奈良先端科学技術大学院大学の研究グループは,作物を短時間で透明化する手法TOMEIの開発に成功した(ニュースリリース)。

植物の品質を評価するためには,表面だけでなく,内部構造を解析する必要がある。植物細胞は細胞壁を持ち,葉緑素を持つ葉緑体や色素を蓄積した液胞などを含んでいる。この植物細胞が何層にも連なって植物組織や器官が形成される。そのため,光が透過できない内部の細胞や構造を解析するためには,薄い切片状にする方法が一般的となっている。

組織や器官を全体的に評価するために,数十枚から数百枚の連続切片を作製する必要があり,膨大な労力と時間がかかっていたが,近年,この問題を解決するために,組織や器官の構造を維持したまま,植物の内部構造を解析できる手法の開発が進められている。

研究グループは,短時間で植物の組織や器官をまるごと透明化する方法TOMEI(Transparent plant Organ MEthod for Imaging)を開発した。これまでに開発された植物を透明化する手法では,例えば,透明シロイヌナズナの作製には,短くても2-3日かかるのに対して,TOMEIならばわずか2時間で透明植物を作製できる。

TOMEIは処理開始後,1日以内に解析を終了できるだけでなく,長時間処理による形態変化や含有物質の劣化・消失を防ぐことができる。無毒性のチオジエタノール溶液を主に使用するため,複数の溶液を組み合わせた複雑な作業工程を省いて透明化することができる。

透明イネの葉は,切片を作製することなく無傷のまま表面から内部まですべての細胞を解析できる。コンフォーカル顕微鏡では通常約30μmの深度までしか蛍光像を得られないが,TOMEIを組み合わせた場合,200μm以上の深度まで蛍光像を取得できる。これにより,内部構造である維管束や光合成を行う葉肉組織の構造も,容易に観察できるようになる。

これらのメリットを生かし,DNAと細胞膜を染める蛍光色素による染色とTOMEI,もしくは細胞核と細胞膜において発現する蛍光タンパク質とTOMEIを組み合わせることで,器官深部の細胞のDNA量と細胞の大きさを定量解析することができる。

具体的な応用例として,この定量解析により線虫が感染した根に形成された根瘤の深部にある巨大細胞は,DNA量と相関して細胞体積が増大することを明らかにすることが出来た。

これにより,切断したり傷つけたり孔をあけたりすることなく,数時間以内に透明作物を作製し,内部構造を解析することが可能になる。短時間の処理ですむため,形態変化や含有物質の劣化・消失なく,より自然に近い状態で解析することが出来る。

この成果により,作物の細胞数や細胞体積を定量することによるバイオマスの評価,作物の内部構造に基づいた品種選抜や品種改良,作物内部に寄生している害虫の非破壊的検出など,農作物の解析・評価・定量に貢献することが期待されるとしている。

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