慶應義塾大学の研究チームは,天の川銀河の中心領域にある特異分子雲中に太陽の10万倍の質量を持つブラックホールが潜んでいる兆候を見出した(ニュースリリース)。
多くの銀河の中心に巨大ブラックホールがある事が最近の研究によって分かってきていたが,その形成・成長のメカニズムは解明されていなかった。
今回,研究チームは,国立天文台野辺山45メートル電波望遠鏡とASTE 10メートル望遠鏡を用いて,天の川銀河の中心核「いて座A*」から約200光年離れた位置に発見された特異分子雲CO–0.40–0.22の詳細な電波観測を行ない,その詳細な空間構造と運動を明らかにした。
21本の分子スペクトル線による詳細観測を行なった結果,同分子雲から18本の分子スペクトル線を検出し,分子ガスの詳細な空間分布と運動を描き出すことに成功した。
これらの結果から,太陽の10万倍もの質量を持つコンパクトな重力源があるとこの分子雲の運動が説明できるという。
赤外線やX線観測ではこの重力源の位置に対応する天体は見られないこともあり,ブラックホールであるとすると,天の川銀河では中心核「いて座A*」に次いで二番目に大きなものとなる。
この事は,太陽の数百倍から10万倍程度の「中質量ブラックホール」が合体を繰り返す事によって中心核巨大ブラックホールが形成され,さらに成長していくというシナリオを支持するもの。
今回,真の意味で「暗い」ブラックホールを,スペクトル線の広域観測によって探査する可能性が示された。今後,野辺山45メートル望遠鏡を使用した大規模な天の川掃天観測,またはアルマ望遠鏡を使用した近傍銀河の高解像度イメージング観測によって,ブラックホール候補天体の数は飛躍的に増加するだとろうとしている。
関連記事「京大,ブラックホールの「またたき」を可視光で観測」「東大ら,最遠方の超巨大ブラックホールをガンマ線で発見」「国立天文台ら,超巨大ブラックホール周囲の磁場構造を解明」