JST戦略的創造研究推進事業において,理化学研究所(理研)と京都大学の共同研究チームは,新しく開発した半導体ポリマーを用いることで,有機薄膜太陽電池(OPV)の光エネルギー損失を無機太陽電池並みまで低減することに成功した(ニュースリリース)。
半導体ポリマーをp型半導体材料として用いるOPVは,プラスチック上に作製できるため,軽量で柔軟という特長を持つ。さらに,半導体ポリマーを塗布することで作製できることから,低コスト,低環境負荷なプロセスで大面積化が可能なため,次世代の太陽電池として注目されている。
OPVの実用化には,エネルギー変換効率の向上が最も重要となる。しかし,OPVでは吸収した太陽光エネルギーを電力に変換する際に失うエネルギー(光エネルギー損失)が0.7~1.0eVと,市販のシリコン太陽電池などの無機太陽電池が0.5eV以下であるのに対して,非常に大きい値を示す。
そのため,同じ太陽光エネルギーを吸収しても,OPVは無機太陽電池に比べて出力される電圧が低くなり,高効率化の壁となっていた。
今回,理研のチームは,「PNOz4T」という新しい半導体ポリマーを開発した。PNOz4Tは,同チームが2012年に開発した10%の変換効率を示す半導体ポリマー「PNTz4T」の分子構造に改良を加えたもの。
これら2つの半導体ポリマーは,吸収できる太陽光エネルギー(バンドギャップ)は,約1.5eVとほぼ同じだが,PNOz4Tを用いて作製したOPV(PNOz4T素子)が出力する電圧は1.0Vであり,PNTz4T素子の0.7Vよりもはるかに高い値を示した。
その結果,PNOz4T素子は約0.5eVと無機太陽電池並みに小さい値となった。PNOz4T素子のエネルギー変換効率は約9%であり,PNTz4T素子の10%には及ばないものの,それでもOPVとしては高い値を示した。
光エネルギー損失が無機太陽電池並みに小さいOPVは,あまり報告例がないうえに,出力される電圧が高い一方で電流が小さいため,エネルギー変換効率は1~6%程度だった。
すなわち,この研究で開発したPNOz4T素子は,これほど光エネルギー損失が小さい系においては,世界最高レベルのエネルギー変換効率を示すOPVだとしている。
さらに,京都大学のチームは,PNOz4T素子の光エネルギー損失が小さい要因について,分光法を用いて詳細に解析した。一般的に,OPVでは半導体ポリマーが吸収した太陽光エネルギーを電力に変換するためには,駆動力となるエネルギーを必要とする。
OPVに太陽光が照射されると,半導体ポリマーはバンドギャップの分だけエネルギーが高い状態に変化する(励起状態)。電力を生じるためには,励起状態から,エネルギーの低い状態(電荷移動状態)に変化する必要がある。
このとき,励起状態と電荷移動状態とのエネルギー差が駆動力となり,一方で,この駆動力がOPVに特有のエネルギー損失の一因となる。PNOz4T素子では,この駆動力となるエネルギー差がほぼゼロであるにもかかわらず電力を生じることが分かった。
その結果,光エネルギー損失が低減され,PNTz4Tに比べて電圧が高くなることが分かった。さらに解析を進めたところ,PNOz4T薄膜の膜質に改善の余地があることが分かった。
今後,材料や製膜プロセスの改良により膜質を改善することができれば,電流を増大することができ,エネルギー変換効率が向上する可能性があるとしている。
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