東大,グラフェンでバレー流の生成・検出に成功

東京大学の研究グループは,電気的に制御することのできる二層グラフェンにおいて,バレー流の生成,検出に初めて成功した(ニュースリリース)。

電子には粒子としての性質と同時に波としての性質がある。一般に電子の波は様々な波長や方向を持つ。一方,電子の波は一部の固体結晶中では,いくつかの特定の波長や方向が安定な状態となる。そして,電子はこの特定の波長や方向により区別される。

このように電子を区別することのできる結晶の性質をバレーと呼ぶ。電子は負の電荷を持つため,電子が一方向に流れると電流が発生する。従って,もし異なるバレーの電子が互いに逆向きに流れる(バレー流)状況を作り互いの電流を相殺し,これを検出できれば,正味の電流をゼロに保ったまま,バレー流による情報伝達が可能となる。

この情報伝達はエネルギー消費を伴わないものとなるため,バレー流を用いた低消費電力エレクトロニクスの実現が期待されている。

黒鉛単層のグラフェンは2つのバレーを持ち,バレー流を用いた低消費電力エレクトロニクスの材料に適している。これまで,グラフェンの性質が接触基板に影響されることを利用して電流をバレー流に,また逆にバレー流を電流に変換できることがわかっていた。

しかし,このような系での双方の変換効率は電子密度のみを通じて制御されるため,その制御性には限界があった。そこで変換効率を広範囲に電気的に制御できるグラフェンのデバイスが求められていた。

今回研究グループは二層グラフェンにおいて電流をバレー流に変換し,電流の漏れ出しを無視できる程度の距離を伝送させた後,バレー流を電流に変換して,これに伴う電圧を検出した。

二層グラフェンを用いれば従来の単層グラフェンからなるデバイスとは異なり,電流からバレー流への変換効率の大きさを電気的により広範囲に制御できることから,電流とバレー流の変換が原理的には室温でも可能となる。

またバレー流を生成する際に流れる電流によるエネルギー消費についても,変換効率の向上により大幅に改善可能と考えられることから,二層グラフェンを用いることでバレー流を用いた低消費電力エレクトロニクスの実現が期待されるとしている。

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