東北大ら,機能酸化物中にナノピラーの導入に成功

東北大学のグループは,IBM チューリッヒ研究所のヨハネス・ベドノルツ博士(1987年ノーベル物理学賞受賞者)らと共同で,最先端の超高分解能走査透過型電子顕微鏡による電子プローブを駆使し,機能酸化物バルク中にバルクとは異なる磁気特性をもつナノピラー(ナノサイズの原子柱)を人工的に制御して高密度に導入することに成功した(ニュースリリース)。

「相変態」は自然界に普遍的な現象で,材料の特性も大きく変化することが知られている。情報化社会の需要に伴い,超小型大容量記憶デバイスの開発が急務とされているが,材料中に相変態相を選択的に導入することが可能になれば,大きなブレークスルーが期待できる。

研究では先ず理論計算により,SrNbO3.4(Sr5Nb5O17)のエネルギー的に安定な構造を探索した。次に,スイス工科大学で作製された試料を,最先端の超高分解能走査透過型電子顕微鏡により観察を行ない,理論計算結果と比較することで各原子列の元素特定を行なった。

このとき超高分解能走査透過型電子顕微鏡のプローブ(30pA)による相変態は誘起されなかったが,プローブ電流を 400pAに上げるとSrNbO3.4の構造が局所的にSrNbO3.3(Sr6Nb6O20)および SrNbO3.5(Sr4Nb4O14)に変化することが確かめられた。

これより,高エネルギー電子線の照射により,酸素分布が局所的に変化し相変態を誘発したものと考えられる。SrNbO3.3の安定構造はこれまで報告されていなかったが,今回の実験で「局所的には安定的に存在できる」ということが分かった。

この時点では全体として酸素数は保存されていりが,さらにプローブ電流を700pAに上げると一部の酸素が除去されSrNbO3への相変態が起こり,衣服のチャックを締めるような現象である原子ジッピング(atomic zipping)が観察された。

相変態が電子線照射によるものであることを確認するために,その場観察も併せて行ない,確かに「電子線照射により相変態が起こり,新しくできた相は試料を貫通している」ということが分かった。

この結果を応用することで,異相ナノピラーの導入を原子レベルの精度で制御することができる。バルクのSrNbO3.4は常温で反磁性を示すのに対し,SrNbO3ナノピラー相は常磁性を示す。昨今の大容量記憶デバイスは,磁気的性質の異なる領域をバルク中に周期的に配列することで実現されており,工業化されている記憶デバイスの磁気相間隔は20nm以上。

一方,研究では異相ナノピラーを5nm程度の等間隔に配置することに成功しており,超小型大容量記憶デバイスへの応用を示唆している。

今後,この研究を起点にし,相変態を原子レベルで局所的に制御することで,新機能材料の研究開発につながることが期待されるとしている。

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