筑波大学の研究グループは,走査トンネル顕微鏡(STM)の技術を駆使し,二つのシリコン電極で挟んだ分子の構造を精密に制御して,分子を流れる電流が変化する様子を測定し画像化する技術を開発した。また,この技術を用いることで,分子を伸縮させると電流値が急峻に変化する分子スイッチを実現した(ニュースリリース)。
分子は,その多様性とそれを制御するナノテクノロジーの進展により,分子エレクトロニクス,医療,薬剤,食品,触媒等,あらゆる分野で重要な役割を担っている。しかも,更なる機能の創成を目ざし,多くの研究・開発が活発に進められている。
引き続き,こうした試みを進展させて行くには,個々の分子レベルで分子が持つ特性をより正しく理解し,それらを制御する技術の展開が必要不可欠となる。分子レベルの特性を調べる先駆的な方法としてブレークジャンクション法と呼ばれる技術がある。
しかし,この方法では,一つの分子に対して一度の測定を行なうことしかできない。そのため,測定を何度も繰り返すことで多くの分子に対して得られた結果を,統計的に処理することで特性を評価することになる。また,金属と分子の接合は不安定で,接合部の影響を無視することが出来なかった。
研究では,シリコン(Si)基板を片側の電極として孤立した状態で分子を吸着させ,もう一方の電極であるSTM探針にもSiを用い,STMの技術を利用して,Si/単一分子/Siの構造を作製した。
接合部では,両電極のSi原子と分子端の炭素(C)原子の間で強固なSi-C結合が形成され,分子を3次元(3D)的に安定させて自由に,しかも非常に精密に制御することが可能になった。
こうして3D的に分子の構造を変化させながら電流を測定することで,分子の構造の変化が分子の電気的な特性に与える影響を画像として表示することができる。この技術を用いて測定を進めた結果,分子スイッチとして働くことが確認された。
研究により,単一分子の構造が電気的特性に与える影響を精密に測定することが初めて可能になった。また,この手法を用いることで,半導体の基盤材料である Siと分子の機能を組み合わせた分子のスイッチも実現された。
今後,様々な分子の系に適用することで,これまでに無い新しい分子機能の発現,創成など,新たな分子エレクトロニクスの分野を構築する基盤技術となることが期待されるとしている。
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