沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,光のプロファイルを「高次モード」に変えたことで,ミクロンサイズの単一粒子を光でより強力に制御する方法を実証した(ニュースリリース)。
粒子を操作する光マイクロファイバやナノファイバの分野はこの10年間で拡大しており,物理学や生物学の世界で有望な技術となっている。ほとんどの研究は,光の基本プロファイルである「基本モード」を用いた技術の利用に重点を置いているが,OISTの研究グループは,光のプロファイルを「高次モード」に変えたことで,光の力が基本モードのときよりも強力になることを実証した。
光は基本モードでは,通常,エネルギーは中心部で最も強く,ビームの縁にいくほど徐々に弱まる。これ以外の形状の光は高次モードとなる。例えば,ドーナツのように見えるエネルギーパターンは,輪の部分にエネルギーの大半が含まれ,穴(中央部)にはエネルギーは含まれていない。こうした高次モードは結晶に光を通すことでつくることができる。
水中における粒子制御ではマイクロファイバにレーザ光を伝搬させる。このファイバの直径は80ミクロンだが,中心に向かって細くなり,中央部の「ウエスト」と呼ばれる領域で2ミクロンになる。光はファイバを通過するとき,この非常に細いウエスト内部に収まることができないため,ファイバ周りにエバネッセント場をつくって広がる。エバネッセント場はファイバ表面近くの粒子を捕らえることができるため,粒子の位置と運動を制御することができる。このとき粒子は光の進行方向に移動する。
研究グループは,基本モードと高次モードのそれぞれの光に対して粒子がどのように反応し,どちらのモードがより大きなエバネッセント場をつくりだすかを比較した。その結果,高次モードを用いると,粒子が最大8倍の速度でマイクロファイバに沿って移動することを確認した。この速度増加の要因の一つはマイクロ流体力と考えられるという。粒子は速度を得るにつれ,ファイバからわずかに離れる。これによって抵抗が減り,ますますその速度を増す。
光マイクロファイバやナノファイバを用いた粒子の光トラッピングと操作は,例えば,標的細胞内のような特定の場所への薬物の送達,ならびに細胞成分間の相互作用力の測定を容易にするとともに,冷却原子を用いた量子物理学の研究に役立つ可能性がある。また,DNAとRNAの転写および翻訳過程に関与するタンパク質を研究するためにこのツールを利用することも考えられるという。
今回の研究では,研究グループはマイクロファイバの使用に際して,個別粒子を捕らえて移動させるために研究で広く使用されている光ピンセットも同時に使用した。マイクロファイバにおける高次モードは粒子操作が可能な方法を増やすため,光ピンセットの改良を促す。今後,マイクロファイバが捕捉粒子に関するより正確な情報を伝える機能を取り込むことによって,光ピンセットの感度を向上させることも予想されるとしている。
今回開発した方法は,選択した特定のパラメータだけに影響を及ぼしながら多くの物理システムの探査を可能にする非侵襲的なツールになるという。今回の研究では,光マイクロファイバに高次光モードを使用してミクロンサイズの粒子を捕捉することに焦点を当てているが,同様の技術を原子レベルで使用することにより,量子ネットワーク内にいくつかのビルディングブロックをつくることができるとしている。
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