新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と新構造材料技術研究組合(ISMA),およびISMAの組合員であるJFEスチールは,鉄鋼材料に含まれる炭素の含有量を世界最高精度の0.01%レベルまで定量的に分析できる装置「FE-EPMA」を開発した(ニュースリリース)。これは従来の装置に改良を加え,分析精度を10倍高めることに成功したもの。
鉄鋼材料の強度は一般的には炭素濃度を高めることにより増加するが,一方,炭素濃度を高めると伸び特性が低下し,プレス成型時の加工性が低下する。このため,強度と加工性を両立させるためには,鉄鋼材料の中で炭素濃度が高い組織と,炭素濃度が低い組織が微細に分散した複合組織にする必要がある。そして,従来よりも高強度かつ高加工性の鋼板を開発するためには,それぞれの微細組織の炭素濃度とその分布状況を従来よりも厳密に制御することが重要となる。
鉄鋼材料に含まれる炭素濃度を定量分析するためには,電子線マイクロアナライザ(EPMA)を使用した電子線分析が一般的。しかしながら,電子線には炭素を吸い寄せる性質があることから,分析の進行とともに分析装置内や試料表面の炭素が試料表面に徐々に堆積して炭素濃度が増大し,分析面積が狭くかつ炭素濃度が低い組織であるほど分析精度が大幅に低下するという課題があった。
これを解決するため,「革新的新構造材料等研究開発」プロジェクトにおける「革新鋼板の開発」テーマの中で開発グループは,鉄鋼材料に含まれる炭素の含有量を高い精度で定量的に分析できる装置「FE-EPMA」の開発に取り組んできた。この開発装置では炭素専用の検出器を3台組み込み高感度化を図るとともに,炭素の堆積を抑制する機能を複数具備させた。これにより,従来は炭素含有量0.1%レベルまでだった定量分析精度を,世界最高精度の0.01%レベルまで10倍高める事に成功した。
この装置を活用することで,自動車用高強度薄鋼板(ハイテン)を製造する際の各プロセスにおける炭素分布を従来比10倍の精度で分析できる。開発グループは,これにより,焼入れ・焼きなましなど熱処理条件の確立や,サンプル材製造時の複合組織の造り込みの精度向上に高い効果を発揮することで,自動車用高強度鋼板の開発の迅速化が期待できるとしている。