京都大学の研究グループは,時計遺伝子の発光リズムをモニタリングする新規解析手法を開発し,時計遺伝子の発現を組織レベルで定量的に測定することに成功した(ニュースリリース)。
植物は,動物とは異なり細胞壁によって細胞同士が固く接着しているため組織単離に非常に時間がかかり,時間の経過とともに発現量が変化する,時計遺伝子の発現を定量的・経時的に測定することは困難だった。また,植物は脳に対応する明確な中枢を持たず,機能を維持したまま組織を培養することも困難だった。植物の体内時計の組織特異的な解析を進展させるために,こうした技術的な課題を解決することが強く望まれていた。
研究グループは今回,超音波処理と酵素処理を組み合わせることで,シロイヌナズナからの組織単離にかかる時間を,これまでの約1時間30分~4時間30分から,30分以内に短縮することに成功した。これにより,単離操作中の遺伝子発現量の変化をほとんど気にする必要がなくなり,定量的に各組織の体内時計を解析することが可能になった。
この方法を用いて,シロイヌナズナに光を当て始めてからの葉全体,葉肉組織と維管束組織の,時計遺伝子の発現を定量的に測定したところ,植物でも動物と同様に体内時計システムは組織ごとに異なっていることが考えられる結果を得た。
さらに,維管束で時計の働きを阻害すると葉肉の体内時計の働きも阻害される一方で,葉肉の時計の働きを阻害しても維管束の時計の働きには影響がないこともわかった。こうした時計制御の非対称性は動物でも見られており,植物の体内時計システムは動物と同様に階層構造を持っていることも明らかになった。
このことを別のアプローチから確認するために,Tissue-specific luciferase assay(TSLA)法を世界で初めて開発した。従来法では,全ての組織で発光リズムが見られるため,特定の組織における発光量を定量することは困難だったが,この方法では,特定の組織における時計遺伝子の発現を発光リズムとしてとらえることができる。
TSLA法を用いた解析から,同じ時計遺伝子でも維管束と葉全体では異なる遺伝子発現リズムが見られることからも,葉肉と維管束の時計システムが異なっていることが支持された。
さらに,こうした維管束の体内時計はフロリゲンと呼ばれる花成ホルモンの産生を通じて,個体全体の生理応答を制御していることも示され,植物の体内時計において維管束が非常に重要であることが示された。
今回,体内時計は多くの遺伝子発現の制御に関わっているので,花成や細胞伸長など体内時計によって制御されている生理応答の解析も,組織レベルで行なっていく必要があることがわかった。研究グループでは,今回開発した手法を用いることで,こうした組織レベルでの解析が大きく進むと期待している。
また,維管束の時計機能を阻害するだけで植物の花の咲くタイミングを遅らせることができたことから,体内時計は植物の生長調節法開発の新たなターゲットになる可能性も指摘している。
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