東工大ら,有機結晶が光で融解するメカニズムを解明

東京工業大学大学,産業技術総合研究所,高エネルギー加速器研究機構の研究グループは,有機結晶が光で融解するメカニズムを放射光X線による結晶構造観察で突き止めた(ニュースリリース)。

研究グループは,長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン誘導体の結晶が,紫外光照射によって融解を起こすメカニズムを,放射光X線を利用した単結晶X線構造解析で,結晶中の分子の様子を詳細に観察することにより解明した。

この結晶は室温付近で紫外光を照射すると融解するが,液体窒素温度付近(−183℃)に冷却すると,紫外光を照射しても融解しない。そこで今回,−183℃から室温まで温度上昇させたときに,結晶中で起こる分子の動きを単結晶X線構造解析で観察し,分子の運動と紫外光照射による結晶融解現象の関係を検討した。

その結果,温度上昇に伴い長鎖アルキル基が大きな熱運動を起こしていることを反映した構造変化の観察に成功した。この長鎖アルキル基の熱運動は,アゾベンゼン部分が弱い分子間相互作用によって1次元的に自己集合した整列構造の形成を誘起している。

この整列構造はアゾベンゼン部分の光異性化反応によって壊れるが,共存する長鎖アルキル基が結晶中にも関わらず液体のように大きな熱運動をしているため,アゾベンゼンの光異性化反応後は結晶全体が乱れた状態へと変化し,融解が起こることが推測される。

実際に光照射下の粉末X線回折実験を−183℃から室温までの温度条件で行ない,紫外光照射で結晶が融解し得る温度を検討したところ,結晶融解現象が起こる温度条件と単結晶X線構造解析で長鎖アルキル基が熱運動を起こしアゾベンゼンの整列構造が観察された温度条件が一致していた。

以上の結果から,長鎖アルキル基が結晶中で液体のように大きな熱運動をしている領域と,光異性化反応による構造変化で整列構造が壊れる領域が共存していることが,光照射による結晶の融解現象が起こる原因であることがわかった。

通常,結晶を融解させるには室温以上に加熱する必要があるが,光照射という簡便な手段で結晶融解を実現する技術を使えば,有機材料の成形・加工の生産コストを大幅に削減できる。光で融解を起こす実例は極めて少なく,有機材料の成形・加工の革新的技術として期待されている。今回の研究は光照射による融解技術を産業化するための分子材料設計方針を提供するものだとしている。