日本電信電話(NTT)は,MEMS技術を用いた新しい構造のフォノニック結晶を作製し,弾性振動,いわゆるフォノンの伝搬を電気的に制御することに世界で初めて成功した(プレスリリース)。
近年,光のフォトニック結晶の概念を物質の弾性振動である「フォノン」の制御に利用した「フォノニック結晶」と呼ばれる人工結晶が研究されており,フォノンが伝搬を担っている音や振動,熱等の新しい制御デバイスとして関心を集めている。しかし,従来のフォノニック結晶ではその動作を外部から電気的に制御することが困難であったことから,動的デバイスとしての応用は限定されていた。
フォノニック結晶の周期構造に起因するフォノニックバンドギャップを用いることにより,フォノンを空間的に閉じ込めることや伝搬させることが可能となる。その一方で,フォノニック結晶におけるフォノンの伝搬を外部操作によって制御することは従来の技術では困難だった。NTTでは,弾性特性の電気的な制御が可能なMEMS共振器をフォノニック結晶の基本素子として利用する独自のフォノニック結晶構造を考案し,フォノンの伝搬を外部から電気的に制御することに成功した。
具体的には,弾性特性の電気的な制御に,デバイスの非線形弾性効果によるパラメトリック制御を利用した。この技術において,導波路中の制御用MEMS共振器に印加する交流電圧の大きさと周波数を調整することにより,弾性振動の抑制ならびに転送等,フォノン伝搬の多彩な制御が可能になる。
フォノンの流れを自在に制御することにより,既存のMEMSセンサの検出感度向上や,信号増幅器や周波数変換器,分配器といったMEMSデバイスの多機能化が期待される。さらには,フォノンの一種である熱の流れやすさを電圧で変調できる全く新しい熱機能人工材料の創製にも,役立つことが予想される。