理研,光合成による水分解メカニズムの解明に大きく前進

理研イノベーション推進センター 中村特別研究室 特別招聘研究員の中村振一郎氏らの研究チームは分子動力学シミュレーションを使い,光合成膜タンパク質への水の供給経路と酸素,水素イオンの排出経路を明らかにした。これは,光合成による水分解メカニズムの解明に向かって大きく前進した成果。

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光合成の初期過程を担う膜タンパク質 「PhotosystemⅡ(PSⅡ)」は,太陽光エネルギーを利用して水を酸素と電子,水素イオンに分解する反応(酸化反応)を行なっている。その立体構造はX線結晶構造解析で決定され,酸素発生中心(OEC)などの詳細な構造も明らかになっている。OECでは,Mn4O5Ca錯体と周りの残基(重合体の主鎖以外の部分)が協調することにより,周期的な5つの状態を経て水の酸化反応が行なわれているが,その動的メカニズムの詳細は不明なままだった。

PSⅡタンパク質はチラコイド膜[3]と呼ばれる植物特有の生体膜上に存在している。研究チームは,この膜を忠実に再現し,膜内にPSⅡタンパク質を埋め込んだモデルを作成した。また,シミュレーションに用いる全ての脂質やリガンド(特定タンパク質と結合する化合物)の力場パラメータを量子化学計算によって作成し,モデルに組み込んだ。

原子数約120万個のモデルの分子動力学シミュレーションの結果を解析したところ,PSⅡタンパク質内部から外に排出される水と,外からPSⅡタンパク質内部に取り込まれる水の動きが観察された。これらの経路は,水の供給と酸素の排出に使用されている可能性を示している。

さらに詳しく調べると,アミノ酸の水素結合ネットワークの中にあまり動かない水分子がある経路が存在していた。これらは水素イオンの放出経路として使用されている可能性を示す。これらの結果から,水の供給経路と酸素,水素イオンの排出経路が明らかになった。

今回,光合成膜タンパク質への水の供給経路と酸素,水素イオンの排出経路が明らかになったことは,天然光合成のメカニズムの全容解明への第一歩といえる。また,PSⅡタンパク質による水の酸化反応のメカニズムを模倣した,人工光合成デバイスの開発に寄与することも期待できる。

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