東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻教授の佐々木裕次氏を中心とする研究グループ(日本大学文理学部物理学科教授の石川 晃氏、助教の小川直樹氏(現在、東京農工大学 工学府)、TSLソリューションズ社長の鈴木清一氏など)は、走査型電子顕微鏡を用いて、水溶液中に存在する直径40nmの金コロイド粒子のブラウン運動をピコメートル(原子サイズの1/100)精度で60ミリ秒の高速性で2秒間、動画として観察することに成功した。
佐々木教授は、以前、計測する波長自身を短波長に持っていく方法を考案しており、この考案に基づいて開発したX線1分子追跡法(Diffracted X-ray Tracking;DXT)は、現在、ピコメートルの位置決定精度でマイクロ秒の高速性を実現し、世界最高精度最高速度1分子計測法へ発展している。
しかしDXTは、X線プローブ源として大型放射光施設が必要。そこで、今回開発した装置では、電子後方散乱回折(EBSD)装置を装備した走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、生体分子に標識したナノ結晶の結晶方位の変化を、原理的に生体分子へのダメージを与えることなく高速時分割計測できる。この開発装置では、電子線1分子追跡法(DET)の原理検討として、金コロイド粒子の動的挙動を計測対象とした。
DETの基本装置構成は、溶液中の試料を観察できるSEM用の環境試料室を薄膜カーボン製の隔膜を用いて、生体分子に標識したナノ結晶の結晶方位の変化をEBSDパターンで高速時分割計測できるコンパクトなラボサイズの高精度電子線1分子(粒子)追跡法。SEMを用いて、水溶液中に存在する直径40nmの金コロイド粒子の運動をピコメートル(原子サイズの1/100)精度で60ミリ秒の高速性で2秒間動画の計測をすることに成功した。
また、測定により、DETはDXTと異なり、市販の金コロイドを標識体として使用できることが新たに分かった。DXTは、非常に良質なナノ結晶を必要とし、その作製に関する研究に多くの時間が費やされる。一方で、DETでは、良質な結晶でなく、市販されている直径数十nmの金コロイド粒子の方位をEBSDが敏感かつ高精度に検出できる。
これまで分子生物学は分子を点として扱ってきた。一方で、構造生物学は分子をある一定の構造体として定義して扱う。しかし、本当の生体分子の構造は、揺らぎの中で常に変形しているため、その現象を細胞内で高速かつ高精度に計測できる方法論を確立することが期待されていた。
また、ラボサイズで多くの研究者が手軽に使えるような装置で、その方法論が実現されることも望まれていた。この研究では、電子顕微鏡を用いて水中で1分子(粒子)の運動計測を高精度で実現できる新規な方法論を提案した。これは電子顕微鏡の全く新しい利用法を提案するものであり、電子顕微鏡を用いて観察できる対象が革命的に広がる可能性を秘めている。
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