横浜国立大学の研究グループは,量子通信,量子計算,量子計測に用いられる誤り耐性のある量子ビットの構成法とこれを自律的に安定化する新原理を実証することに,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
量子情報科学において,情報処理デバイスの情報の入出力にまで量子効果を許すことで,今までにない計算能力を持った量子計算機や,原理的に安全な量子通信を実現できるといわれている。また,超高感度なセンサーなどを実現する量子計測にも応用できるとして期待されている。
これらを実現するためには,量子ビットを正確に操作し,安定に保持する必要がある。しかし,これまでに提案されている量子ビットは操作誤りが累積し,またこれを安定に保持することは極めて困難だった。
今回,研究グループは,ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)の電子スピン対に着目し,誤り耐性のある量子ビットの構成法とこれを自律的に安定化する新原理を実証することに,世界で初めて成功した。
NV中心はダイヤモンド中の窒素不純物と炭素欠損が隣接して対となったもので,真空中の孤立原子と同様に安定な量子媒体となり,この空孔に局在した電子スピン対は量子ビットとしての応用が期待されている。
従来の量子ビットはこれを構成する二つの量子状態だけを利用していたが,今回の量子ビットはこれらの二つの量子状態以外に補助となる第三の量子状態を利用することで,誤り耐性のある量子ビットを構成し,従来の動的スピンエコーとは全く異なる幾何学的スピンエコーと呼ぶ新原理の安定化技術により,磁場を完全に排除した無磁場下でこの量子ビットが自律的に安定化できることを示した。
量子の状態が持続する時間を量子コヒーレンス時間と呼ぶが,この量子コヒーレンス時間が通常の0.6マイクロ秒から約140倍の83マイクロ秒に延びることを示した。
この結果は,磁場を完全に排除した無磁場環境下で,量子ビットを破壊する原因となる環境ノイズや制御エラーを自律的に排除できることを示すもので,誤り訂正の不要な量子メモリーや究極の感度を持つ量子センサーに道を開くものだとしている。
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