農工大,高透過率ガラスメタマテリアルを作製

東京農工大学の研究グループは,細く高い金属ナノフィンの周期構造をガラス中に埋め込むことで,可視光の広い波長域にわたって50%を超える高い透過率と,2分の1波長に迫る大きな位相差165°を合わせもつ金属メタマテリアルを実現した(ニュースリリース)。

自然界の物質では実現不可能な光学特性をもつ人工物質(メタマテリアル)が注目されている。メタマテリアルは光の波長程度(髪の毛の数100分の1)のサイズに加工された物質からなる。このうち金属を平面的にパターニングした金属メタマテリアル(金属メタサーフェス)は,超小型な光学素子を製作できることから,様々な分野での応用が期待されている。

具体的な光学特性としては,負の屈折率や巨大な複屈折性・旋光性が挙げられる。しかしながら,金属メタサーフェスを光が透過する際の損失が大きく,透過率が低いという問題点があり,大きな複屈折と高い透過率を両立することが困難だった。

また,使用する光の波長と同程度の加工寸法を要するため,波長の長い赤外光における研究が多い割に,波長の短い可視光における研究が現状では少ない。

研究グループはこれまで,電子線描画と金属蒸着を組み合わせた手法で,金属細線を周期的に並べた格子構造によって,可視光で動作する金属メタサーフェスの偏光変換素子を製作してきたが,透過率は3%程度と少ないことが問題だった。世界的にも,位相差がこの手法の半分の4分の1波長板において透過率50%という例はあるものの(2分の1波長板になると25%相当),金属メタサーフェスで2分の1波長板を実現した例はなかった。

研究グループは従来の平面的なメタサーフェスに替えて,立体的な構造であるフィン状構造体を製作し,大きな複屈折位相差と高い透過率を両立させることができた。しかしながら,位相差が特定の波長でしか測定できなかったことと,光の偏光方向によっては透過率が低下してしまうこと,また機械的な強度が低く壊れやすいことが問題だった。

これらの問題を解決するため,ナノコーティング法によりフィンをガラス中に埋め込むことを考えた。埋め込みによって構造体の透過率が広い波長帯域にわたって向上した。また,理論的な設計手法を確立し,広い波長帯域でほぼ一定の複屈折位相差を実現した。

さらに埋め込みによって機械的な強度が向上し,ピンセットで触ったり,拭いたりしても壊れない堅牢な素子を作ることができた。これらの成果はメタマテリアル素子の実用化に向けた課題を解決するものだとしている。

この研究の成果を応用することで,超高速光通信のための光制御素子や,3D動画プロジェクターのための空間光変調器への応用が期待されるという。将来的には,透明マントなどの光メタマテリアル研究の発展に貢献すると予想している。

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