北大,光アンテナで半導体の可視光発電に成功

北海道大学の研究グループは,エネルギーの高い紫外光しか吸収することができないn型半導体の酸化チタン,及びp型半導体の酸化ニッケルの接合界面にエネルギーの低い可視光にアンテナ機能を有する金ナノ微粒子を担持し,半導体それ自体では発電できない可視光での発電に成功した(ニュースリリース)。

窓材などに利用できる太陽電池は,可視光をほとんど透過し,紫外光,または赤外光に応答し,光発電する必要がある。研究グループは,これまで進めてきた金ナノ微粒子が持つ局在表面プラズモン共鳴を用いて可視・近赤外光を捕集し,湿式光-電気エネルギー変換系(湿式太陽電池)の構築を行なってきた。

しかし,湿式太陽電池は電解質溶液を用いているために液漏れや長期安定性の問題が指摘されており,またその原理上,電流取り出し時に化学反応を伴うために純粋な電子やホールの振る舞いを観測することは困難だった。

研究では,光アンテナとして金ナノ粒子を有する半導体基板上に固体ホール輸送層として酸化ニッケル薄膜を成膜して全固体プラズモン太陽電池を作製することで,半導体そのものでは発電できない可視光での発電に成功した。

酸化物半導体の一つである酸化チタンの単結晶基板上に,光アンテナとして金のナノ粒子(平均粒径10nm程度)を高密度に配置し,その上に酸化ニッケルを200nm成膜して太陽電池を構築した。作製した太陽電池に擬似太陽光を照射し,太陽電池特性について評価した。

作製した全固体プラズモン太陽電池へ擬似太陽光を照射したところ,光電流が観測され,特に擬似太陽光中に含まれる紫外光を除去して照射しても光電変換特性を示すことが分かった。酸化チタン・酸化ニッケルは可視光応答性を持たないため,これは金ナノ粒子の光アン テナ効果によるものだとしている。

この光電変換の機構は,光アンテナによって効率的に集められた光子によって金の電子(e)が励起され,電子輸送層である酸化チタンへの電子移動を誘起しているものと考えられる。このとき,同時に生成したホール(h+)は金と酸化チタンの界面に捕獲されており,その後ホール輸送層である酸化ニッケル側に移動すると推測している。

作製した太陽電池は,3日間擬似太陽光に暴露しても99%以上の光電変換能を維持しており,有機化合物などを用いた太陽電池と比べて極めて高い耐久性を持っていることが分かった。さらに,作製したプラズモン太陽電池を500℃で焼成したところ,酸化ニッケルの結晶構造や酸化チタン/金ナノ粒子/酸化ニッケルの界面構造の変化に伴い,太陽電池特性も大きく変化したことから,プラズモン光アンテナによって生じた電子とホールの振る舞いは,固体媒質の微細構造に大きく影響を受けることが明らかとなった。

研究では,従来の酸化チタンと酸化ニッケルからなる固体太陽電池の接合界面にナノ空間に,光を濃縮可能な光アンテナを導入することで,半導体太陽電池に可視光応答性を付与することに成功した。今後,反応効率を向上させるとともに,光アンテナの応答波長を赤外領域に調節することで,人の目には透明なのにも関わらず紫外光と赤外光で発電可能な「透明太陽電池」の開発への展開が期待される。

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