京大ら,量子もつれ光による超高分解能光断層撮影技術を開発

京都大学,物質・材料研究機構(NIMS),名古屋大学の研究グループは,量子もつれ光を用いた2光子干渉により,分解能0.54μmに相当する2光子量子干渉縞を実現,また,群速度分散耐性を実証した(ニュースリリース)。

光干渉断層撮影技術(光コヒーレンストモグラフィ)は,眼科分野において,網膜など様々な組織の診断技術として急速に普及している。さらに,肺や消化管の表層組織の断層撮影への応用も進められており,早期がんの診断などへの検討も進められている。

この技術ではより高い深さ分解能の実現は非常に重要となるが,光干渉断層撮影技術の深さ分解能を向上させるには,より広帯域の光源を用いる必要がある。しかし光源の帯域を拡げると,光の波長ごとに光の進行速度が異なる群速度分散により,分解能が逆に劣化するというジレンマがあり,分解能は5μmから10μm程度に制限されていた。

それを解決する方法として,量子もつれ光の量子干渉を利用する量子光干渉断層技術が,2002年に提案された。この方法では,原理的に群速度分散による分解能の劣化がなく,高い分解能を得られることが期待される。

研究グループは,今回,非常に広い帯域を持つ量子もつれ光源を開発,世界記録となる0.54μmの分解能に相当する量子干渉縞を実現した。これは,従来の光断層撮影の原理検証で記録されていた世界記録0.75μmを超える値。さらに,この超高分解能が,分散媒質(水)などによってほぼ影響を受けないことも実証した。

量子もつれ光源として今回NIMSは,電子ビーム露光法により形成した微細電極を用いた高精度分極反転技術により,高効率な擬似位相整合素子を開発した。素子の材料は,NIMSで独自に研究開発した定比組成タンタル酸リチウムを用いており,安定した量子もつれ光子の発生が実現されている。

実験では,その擬似位相整合素子から発生させた,波長660nmから1040nmと,可視広域から近赤外光域にわたる超広帯域量子もつれ光子対を用いて,従来の光断層撮影法で用いられる低コヒーレンス干渉,および量子光断層撮影法で用いられる2光子量子干渉を,今回開発した高安定高精度干渉計を用いて実施した。

図(a)は,得られた低コヒーレンス干渉縞。横軸は光路長差,縦軸は干渉光強度を表す。この干渉縞の幅(1.5μm)が,光断層撮影の深さ分解能を与える。図(b)は,光路中に1mm厚の水を挿入した場合の結果。水の群速度分散の影響で,干渉縞は著しく拡がり,分解能も1.5μmから7.8μmに大きく劣化している。

図(c)は,量子もつれ光子対の2光子量子干渉の結果。横軸は光路長差,縦軸は光子を同時に検出した回数(同時計数)を示している。2光子量子干渉では,光路長が一致するところで同時計数が0になり,その窪みの幅が,分解能を与える。この実験では,量子光断層撮影の深さ分解能0.54μmに相当する2光子干渉が得られている。

図(d)は,光路中に1mm厚の水を挿入した場合の結果。低コヒーレンス干渉の場合(図(b))と大きく異なり,分解能は0.56μmと,水が存在しない場合と比べ殆ど変化していない。

今回の成果により,これまで5~10μmに制限されていた,光断層撮影の深さ分解能を大幅に向上させ,1μmを切る分解能をもつ量子光断層撮影装置の開発が期待される。それにより,網膜の厚みの高精度モニタリングによる緑内障の発症前診断の実現などが期待される。今後は,量子もつれ光源の大光量化の研究を進め,量子光断層撮影装置の実現を目指すとしている。

関連記事「名大ら,超高速2光子ラビ振動の観測に成功」「福井大ら,2光子レーザ顕微鏡で視神経軸索内の動画観察に成功」「基生研ら,2光子イメージングを用いて動物が1個の神経細胞の活動を意志で操作できることを証明