九大ら,太陽光でも高エネ変換が可能な材料を開発

九州大学と伊ミラノ・ビコッカ大学の国際共同研究グループは,低エネルギーの光を高エネルギーの光に変換する技術であるフォトン・アップコンバージョンの実用化に不可欠な,太陽光程度の弱い光で効率を最大化する有機―無機複合材料を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。

フォトン・アップコンバージョンとは,低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に変換する技術で,これまで不可能とされていた弱い光の利用を可能にする革新的なエネルギー創生技術であり,太陽電池や人工光合成の効率を大きく向上させるとして期待されている。

フォトン・アップコンバージョンの機構として,二光子吸収や希土類ナノ粒子の多段階励起に基づく機構が知られているが,これらの現象を起こすためには,レーザ光などの非常に強い光(太陽光の千倍以上)を必要とするため,太陽光などの弱い光は用いることはできなかった。

そこで近年では,三重項―三重項消滅(triplet-triplet annihilation:TTA)を経る機構が,弱い光でもアップコンバージョン発光を観測できるものとして注目を集めている。このTTA機構によるアップコンバージョンでは通常,ドナー(増感剤),アクセプター(発光体)として働く2種の色素分子を有機溶媒に溶解させ,低いエネルギーしか持たない2つの光子を用いて,より高いエネルギーの1つの光子を生み出す。

これまでTTAを用いたアップコンバージョンの研究では,分子の拡散が制限され,太陽電池に用いるような個体状態では,太陽光のような弱い光で高効率化することは困難だった。

研究グループは,色素分子を自己組織化させるという全く新しいアプローチにより,分子ではなくエネルギーを拡散させ,溶液中で高効率なアップコンバージョンに成功したが,固体状態では集合構造の乱れなどにより高効率化は未だ困難であり,さらなるブレイクスルーが必要だった。

今回,研究グループは,金属錯体骨格(MOF)という結晶性材料中にアクセプター分子を規則的に配列させ,MOFを用いたアップコンバージョンを世界で初めて成功させた。

これまで,太陽光のような弱い光を用いたアップコンバージョンの高効率化には,①いかにドナーからアクセプターに励起三重項エネルギーを効率よく移動し,かつ,②その励起三重項エネルギーをアクセプター分子間で高速に拡散させるか,といった2つの課題をクリアする必要があった。

まず1つ目の課題に関しては,コロイド・界面化学的な新しいアプローチを導入して解決した。さらに2つ目の課題に関して,MOFの構造中にアクセプター部位(ジフェニルアントラセン)を規則的に配列させることで,励起三重項エネルギーを高速に拡散させることに成功した。

このように2つの課題を新しい手法により解決し,太陽光程度の弱い光でもアップコンバージョンの効率を最大化(約2%)することに世界で初めて成功した。

今回開発したアップコンバージョン材料は,PMMAなど汎用性のプラスチックに組み込むことも可能であるため,折り曲げたり伸ばしたりできるフレキシブルなデバイスの基盤材料としても期待される。将来的に近赤外光を可視光に,また可視光を紫外光に変換する色素系へと応用すれば,太陽電池や人工光合成の効率を高めるための画期的な方法論になることが期待されるとしている。

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