神大ら,原子核乾板によるガンマ線観測実験を実施

神戸大学や名古屋大学を中心とするGRAINE共同研究グループは,原子核乾板(エマルションフィルム)を用いたガンマ線望遠鏡システムの気球による実証実験を実施した(ニュースリリース)。

宇宙空間を高速で飛び交う陽子,電子,原子核をはじめとした高エネルギーの「宇宙線」が星間ガスなどの物質と衝突するとガンマ線が発生する。ガンマ線は磁場の影響を受けることなく宇宙空間を直進する性質を持つため,ガンマ線がやってきた方向やエネルギーを測定することで宇宙の高エネルギー天体現象について間接的に調べることができる。

ガンマ線領域での観測は,2008年にフェルミ宇宙望遠鏡による観測が開始されて以降大きく進歩したが,赤外線や可視光線での観測と比較するとまだ未開拓な分野。ブラックホールや中性子星(パルサー)のほか,ガンマ線を放出する正体不明の天体も見つかっており,高性能なガンマ線観測器の開発が求められている。

GRAINE共同研究グループは,宇宙から飛来するガンマ線を高い解像度で捉えるため,原子核乾板(エマルションフィルム)を使用したエマルション望遠鏡を開発。このフィルムは放射線が通った跡を1μmで記録可能で,最先端のガンマ線天文衛星より100倍高い解像度で撮影できる。

研究グループは2014年から名古屋大学内の施設でエマルションフィルムを作成。2015年3月,製造した総面積50平方メートルのフィルムからエマルション望遠鏡として組み上げ,宇宙航空研究機構(JAXA)の大気球に搭載した。

実証実験は5月12日から13日にかけてオーストラリアで実施。高度36キロメートルから6時間以上にわたって明るいガンマ線を放出する中性子星Velaパルサーを観測した。その後,エマルションフィルムを回収,全ての現像作業を完了し,フィルムが健全な状態で観測が行なわれたことを確認した。

今後,名古屋大学が開発した世界最速の原子核乾板解析装置HTSを用いてエマルションフィルムを解析。1年程度をかけて観測結果をまとめるとともに望遠鏡システムの性能評価を行なう予定。

グループリーダーの青木茂樹教授(神戸大学人間発達環境学研究科)は「エマルション望遠鏡で初めてとなる天体観測を成功させ,その高い解像度を実証し,今後の大面積かつ長時間の本格的な科学観測開始につなげていきたい」としている。

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