阪大,優れた水素吸蔵特性をもつ新物質の合成に成功

大阪大学は,自己組織化を利用して従来手法よりも容易な合成手法を用いることによって,2つの分子が1次元方向に連なった,新物質1次元2量体の合成に成功した。また,この物質に含まれる特徴的な1次元空間を水素吸蔵に利用すると,この物質の吸蔵量は,室温における既存の金属有機構造体(MOF)の吸蔵量の中で,最大であることも発見した(ニュースリリース)。

近年,エネルギー・環境問題が深刻化する中,石油代替エネルギーの実現のために注目されている水素を貯蔵・放出する技術の確立が求められている。しかし,既存の水素吸蔵合金や多孔性物質などは,その重量,水素吸蔵・放出の不可逆性,室温での動作性に問題があり,幅広く応用できていない。

最近,金属元素と有機元素から成る金属有機構造体が水素吸蔵物質の新たな候補として注目されているが,いずれも3次元のフレームワークを形成する結晶構造の特徴を利用した物理吸着のため,室温での動作性が応用へ展開するのに十分でなかった。

今回の研究では,これまでほとんど注目されてこなかった弱塩基性物質を用いて新物質を創製した。特に,従来の手法とは異なり,合成過程で熱・圧力を加えず自己組織化を利用した容易な手法で,1次元2量体を合成した。

また,新物質の合成のみならず,1次元構造間に含まれる空間を水素吸蔵に利用するという着想のもとで水素吸蔵特性を調べた結果,室温における既存の金属有機構造体の中で最大の水素吸蔵量(2.5-3 wt%)を発見した。

拡散が速いという1次元の特徴を反映して,この新物質では水素化速度が速く,また水素吸蔵・放出の圧力依存性が可逆特性を示すことから,応用への利点となる。金属有機構造体などの多孔性物質は物理吸着を利用しているため,低温での吸着量には優れるが,室温ではその特性は著しく低下するという欠点がある。

今回合成した物質では,水素が原子として1次元空間に捕獲されていることが,室温での優れた水素吸蔵特性に起因していると考えられるという。

大阪大学では今回の研究成果について,容易な手法で新物質を合成するとともに,これに新しい吸蔵機構により水素吸蔵という機能を融合させる特徴的なものでもあると同時に,水素社会実現という社会的要請に答え得るものだとしている。

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