情報通信研究機構(NICT)は,ドイツ物理技術研究所(PTB)と共同で,通信衛星を利用した新しい手法で,両機関で開発されたストロンチウム光格子時計の生成周波数を直接比較することに世界で初めて成功。両時計が刻む時間の長さが625兆分の1の精度で一致していることを確認した(プレスリリース)。
現在,1秒はセシウム原子が共鳴する約9.2GHzのマイクロ波遷移の周波数によって定義されている。一方,近年レーザ光の数100THzに及ぶ高い振動数をカウントすることによって新しい時間の基準を作ることが可能となり,光格子時計等の光時計で秒を定義し直すこと(秒の再定義)が議論されつつある。
しかし,光による,より高精度な時間の基準を国際標準として運用するためには,国際的に同じ長さの1秒が生成されていることを現在より高い精度で定常的に確認する必要があり,その比較手法の開発は,光原子時計の開発と同様に秒の再定義への必要条件と言われている。
今回NICTは,現行のセシウム標準を経由せず,通信衛星を利用して光時計を直接接続する新しい手法を開発し,共にSr光格子時計を持つPTBとの間で,両光格子時計の刻む時間の長さを高精度に直接比較することに成功した。そして,その結果、両者が625兆分の1(1.6×10-15)以下の不確かさで一致していることを確認した。
今回開発した周波数比較の手法(衛星双方向搬送波位相法)により,現在の秒の定義に依存せずに,秒の二次表現であるストロンチウム光格子時計の生成周波数を大陸間で比較することができる。そのため,この手法は,光時計で秒の再定義がなされたときに,光時計による時刻を国際標準として国際間で維持するための有効な比較手法として期待される。