海洋研究開発機構・海洋工学センター海洋技術開発部の小栗一将氏,後藤慎平氏,それに海洋・極限環境生命圏領域・主任研究員の布浦拓郎氏らのグループは,大深度用小型無人探査機「ABISMO」を用いたマリアナ海溝での調査において,世界で初めてとする水深7,900mでの4Kカメラ映像の撮影に成功した。
今回,海底観察を可能にするマルチ4Kカメラシステムを開発。このシステムは,水深8,000mの圧力にも耐える国産13インチガラス球の内部に市販の4Kカメラ,制御基板,電源用バッテリを搭載したもので,外部からの電源供給や複雑な制御を必要としない独立したシステムとなっている。撮影開始時刻の設定などはガラス球越しにWi-Fi通信で行なわれるという。
2014年1月,このシステムを大深度用小型無人探査機「ABISMO」のランチャー,及びビークルに取り付けマリアナ海溝で稼働試験を行なったところ,水深7,900mで高精細映像を取得することに成功。4Kカメラが超深海の様子を捉えたのは今回が世界初としている。また,水深7,600mでは底生生物が活動する様子の撮影にも成功したほか,外部からの電源供給を必要としないことから,これでまで困難だった探査機の投入から揚収までの高精細映像の取得にも成功した。
システムは,ガラス球にコネクター等を接続する必要がないため,通信ケーブルやマニピュレータを持たないAUVなどの探査機のほか,特定の観測に特化してきたOBSやマルチプルコアラ―などの観測装置などあらゆるタイプの探査機や観測装置に容易に取り付けることができるという)。
また,撮影された映像はカメラ自身に記録されるため,船舶側に光ファイバ通信設備など特別な受信設備を持つ必要がなく,これまで以上に水中での撮影機会を増やすことが可能。さらに,撮影開始のタイミングや撮影間隔などの設定を変更すれば,海底環境の日周期変化や季節変化などの長期観測撮影にも対応することができるとしている。
システムの開発により,さまざまな場面においてより高精細な映像を取得できるようになり,まだ明らかにされていない深海生物の生態解明や海底地形の調査に大きく寄与することが期待されている。今後はガラス球以外の小型容器等にも格納できるよう,システムのさらなる小型化を図り,カメラ機能拡張による性能向上を目指して研究開発に取り組んでいく予定だ。
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