月刊OPTRONICS 特集序文公開

広ダイナミックレンジの電流を高精度に計測するダイヤモンド量子センサ

1.はじめに
2050年カーボンニュートラルの実現には,化石燃料由来の電気利用の依存度を下げ,温室効果ガスを排出しない太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる電気利用の依存度を上げることが重要となる。しかし,再生可能エネルギーは自然環境に大きく依存して,出力変動を伴う欠点がある。このため,一度蓄電池などに蓄え,需要に応じてインフラに電力を供給することが望まれる。その中で,電気自動車(EV)や家庭向け蓄電池,今後,導入が進むとみられる大型蓄電池システムなどが,電力の需給バランスの調整機能になると期待される。電力の計測・センシングの観点では,貯蔵した電力をインフラに供給するために大電力を高精度に測ることが今後求められる。さらに,電力供給に使用される銅導体(断面25×10mm)に大電流を流した時に銅導体の表面温度は周囲温度25℃から80℃以上に急上昇し高温となることも予想される(図1)。EV応用を考えた場合,–40~85℃の環境下で動作する必要がある。このように今後のインフラをはじめとする電力の計測では過酷環境下でも大電流を高精度に計測可能なセンサの重要性が高まる。

この電力計測において,高性能な量子センサの1つであるダイヤモンドNVセンタに注目している。ダイヤモンドは硬度が高く過酷環境下で安定した材料であり,NVセンタは,磁場(電流)と電場(電圧),温度を同時にセンシングでき計測範囲も広い特徴を有する。また,室温かつ大気圧で動作することができ,産業への応用の幅が広い。筆者らは「光・量子飛躍フラッグシップ・プログラム(Q-LEAP)」の「固体量子センサの高度制御による革新的センサシステムの創出」にて,EV応用も想定した蓄電池の充放電電流を高精度に検出する電流センサの研究開発に取り組んでいる。本稿では,NVセンタの計測原理と電流センサの原理モデル品で検証した結果からNVセンタの特徴を述べる。

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