1.はじめに
車載センシングの重要性は,読者の誰しもが認識していることと思われる。いわゆる緊急時自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキAEBS:Advanced Emergency Breaking System)は,2021年に義務化され,そのレベルは様々あるが2022年国内総生産台数のほぼ100%の乗用車が何らかの機能を搭載している。また,本年4月には,米国が,従来技術では十分成熟しているとは言い切れない夜間も含めた自動ブレーキの義務化を発表した。これはかなり思い切った規制であり,交通事故減への政府の強い思いが読み取ることができる。今後もこの流れが進んでいくことは確実であり,最終的な目標である自動運転(完全自動運転になるのかどうかは議論があるが)に向けて,益々センシング技術は,重要になってくるであろう。
センシング技術は,自動運転用途だけには留まらない。近年充電ステーションの整備状況などの問題で少し足踏みをしている電気自動車EVや逆に勢いを取り戻したプラグインハイブリッドPHV等,自動車の中における電気部品の割合は益々増えている。そのような中で,それぞれの部品が正しく機能しているかどうかをモニタするためのセンシング技術も必須となっている。以上より,本特集を組むこととなった。このようなセンシング技術は,ハードとソフトの両輪でシステムの進歩が成り立っている。一般的にこのような特集ではハードウェアが注目されることが多いが,本特集においては,ハード,ソフトの両方に注目し,6件の寄稿をいただいた。
2.車載センシングの分類
本特集の冒頭に際し,少し車載センシングおよび関連技術を分類してみる。大きくは先進安全装置を含む自動運転用途と運転機能自体に関する用途にわけられる。これらを下記に記載する。
▶自動運転用途
•車外物体・人物位置認識
•機能安全・セキュリティ監視
▶運転機能用途
•車内搭乗者監視
•ドライバー・車外への情報提示
•バッテリ監視
この他にも,様々にセンシング技術が利用されている用途もあると思うが,本特集に関連している部分のみを記載させていただいた。
車外における物体・人物に対する距離センサにおいては,カメラ,レーダー,ソナー,LiDAR(Light detectionand ranging)が利用される。最も安価で多用されているのは音波を利用したソナーであるが,これは近距離の接触防止の用途に限られる。中長距離においては,他の3つが利用されるが,現時点ではどれかが最終的に残るのか,もしくはセンサーフュージョンと呼ばれる複数が利用されるようになるのかは明確でなく(センサーフュージョンとなる可能性は高いが)今後の研究開発によるであろう。今回の特集では,LiDARにおける受光器に関し,浜松ホトニクスの永野氏に「LiDAR用SiPM(SiliconPhoto Multiplier)の動作原理と開発事例」を寄稿していただいた。また,カメラ,LiDAR,レーダーを利用した物体の認識技術も重要かつ近年の機械学習等により技術的発展が凄まじいが,このトピックに関し,電動モビリティシステム専門職大学の秋田氏に「カメラ・LiDAR・ミリ波レーダーによる走行環境認識技術」として寄稿をいただいた。これらの技術が発展し,完全自動運転に近くなるにつれ,ドライバーがシステムに依存していくことになるため,より重要になってくるのが,どんなときにも正しく機能するための機能安全性と悪意を持つ外部からの干渉を避けるセキュリティである。このトピックに関しては,ソニーセミコンダクタソリューションズの小股氏,池田氏による「モビリティを支える車載向けイメージセンサーのセーフティ&セキュリティ技術」を寄稿していただいた。
車内に目を向けると,レベル4(特定条件下での完全自動運転やレベル5(すべての状況での完全自動運転)にならない限り,あくまでも最終的にはドライバーが運転の責任を持つことになる。また,わき見,居眠り運転などの事故を防止するためにも,ドライバーモニタリングシステムという機能は必須となる。これに関しては,SUBARUの中村氏による「SUBARUのドライバーモニタリングシステムについて-「安心と愉しさ」の価値向上-」を寄稿していただいた。近年,通園バス等による子供の居残り事故もあり,モニタリングはドライバーにとどまらないかもしれない。
運転機能用途では,カーナビなどの進化により,それに頼ることも多くなり,車外でのセンサが充実してくるとその情報を提示するため,ドライバーが,わき見をせず,適切な車内・車外の情報を得ることがより重要になってきている。そういう面からは,HUD(Head UpDisplay)が今後注目される技術である。本特集では,その中でもレーザー光源に着目し,特に視感度が低く高輝度が必要である赤色レーザーに関してウシオ電機の矢野氏に「赤色レーザーと車載応用」を寄稿していただいた。
最後に,EVやPHVなどでは,従来の車に比べ,システムがバッテリに大きく依存するため,バッテリの状態を監視することも重要である。特に車は,使用する温度範囲が大きいため,安定した状態監視として,高感度な磁場センサである窒素-空孔中心を有するダイヤモンドを利用した報告を矢崎総業の谷川氏,中園氏,東京工業大学の波多野雄治氏,岩崎氏,波多野睦子氏に「広ダイナミックレンジの電流を高精度に計測するダイヤモンド量子センサ」として寄稿いただいた。
以上6件の幅広い技術・システムの紹介をいただいたので,ぜひともじっくりお読みいただきたい。この特集ではカバーしきれない部分もあるが,例えば2022年10月号の雑誌オプトロニクスでは,ステレオカメラ,LiDAR,車外への情報提示,光伝送技術等の寄稿も掲載されているので,合わせてお読みいただければと思う。
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