筑波大,赤外線や円偏光を吸収する高分子を発見

筑波大学は,らせん構造の導電性高分子において,電気伝導を担う単位構造である「バイポーラロン」がらせん状に生成していることを確認し,これらを総称して「カイラリオン」と名付けた(ニュースリリース)。

物質の構造において,右手と左手の関係のような対称性があるものを「カイラル(chiral=手)」と呼ぶ。カイラルな物質の構成が,分子レベルで右手型あるいは左手型構造に偏っている場合,光を特定方向に回転させる光学回転現象が生じる(光学活性)。

このような光学活性は,らせん状の形態をもつ合成高分子の一部にも見られる。 また,シリコンやゲルマニウムなどの無機半導体では,不純物添加を行なうことにより「ホール」が発生し,これが電荷の移動を担う。

導電性高分子におけるポーラロンやバイポーラロンは,ホールと同様に電気伝導の役割を果たす単位構造(電荷担体)で,通常は直線状。らせん高分子の合成や光学活性についてはこれまでに活発に研究がなされてきた。また導電性高分子の(カイラルでない)ポーラロンやバイポーラロンなどの電荷担体についても,よく調べられてきたが,らせん状導電性高分子についてはほとんど議論されてこなかった。

光学活性でらせん構造をもつコレステリック液晶を電解液に用いて,導電性高分子を電気化学的に合成する電解不斉重合法により,光学活性(カイラル)で,かつ,らせん構造をもつ導電性高分子ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を合成した。

この高分子の円偏光二色性光吸収性を近赤外-短波長赤外領域で測定した(NIR-SWIR-CD)。その結果,この帯域に光吸収性をもつ,電気伝導を担うプラスの電荷が2つペアになったバイポーラロンが光学活性で,らせん状の高分子鎖に沿って存在していることがわかった。

今回の実験結果は,らせん構造をもつ一次元的な導電性高分子PEDOTの,電気伝導をつかさどるバイポーラロンが,高分子内部で非常に緩やかにねじれたカイラル構造をもって円偏光二色性光吸収性を示すことを示唆している。このらせん状の電荷担体を「カイラリオン」と名付けた。

今後は,PEDOTのみでなく,他の系のカイラル導電性高分子の光学活性を調べ,同様にカイラリオンの存在を確認するとしている。また,光ファイバー通信で最も光損失の少ない帯域にカイラリオンの光吸収帯が位置することから,この結果を光通信分野へ応用することを検討していく。

さらに,カーボンナノチューブは一次元的物質で,一次元伝導的なポーラロンを形成することが示唆されており,カイラル導電性高分子における「カイラリオン」の存在は,ナノカーボンの電子伝導解明の一助となる可能性も秘めている他,生物の中には,偏光を利用して身を守るなどの機能をもつものがあり,このような生物の生態を解明する手がかりにもなり得るとしている。

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