産業技術総合研究所(産総研)と島根県産業技術センターは共同で,非接触式の静電容量型フィルム状近接センサーを作製し,それを人の目に触れないところに設置して,使用者に精神的・肉体的な負担をかけることなく,人の動きや呼吸を検出できる技術を開発した(ニュースリリース)。
開発したフィルム状近接センサーはフィルムのおもて面と裏面に電極が設置されたコンデンサー構造になっており,電極間に交流電圧をかけて用いる。おもて面と裏面の電極サイズが同じ場合,発生する電気力線は電極間に閉じ込められる傾向にあるが,電極サイズが異なると周囲に電気力線が漏れる。
この状態で人がセンサーに近づくと,電気力線の一部が人の方向に向くため電極間の静電容量が変化する。これにより,人の接近を検出する。その際,電気力線が一般的な床材やベッドマットなどで遮蔽されない周波数(今回は200kHzを使用)の交流電圧をかけると,センサーが「物体の裏側に隠れている状態」でも,おもて側での人の接近を検出できる。
なお,この動作原理自体はスマートフォンやタブレットなどで用いられる静電容量型のタッチパネルとほぼ同じだが,今回開発したフィルム状センサーは触れないでも接近するだけで動作する。
両面に電極を持つ構造を印刷で作製するにあたり,産総研が開発したスクリーンオフセット印刷法を利用した。スクリーンオフセット印刷とは,転写体となるシリコーンゴムに所望のインクパターンをスクリーン印刷し,さらにそのパターンをシリコーンゴム上から基材に写し取る手法。この手法により,簡単にフィルム両面に電極パターンを形成できる。
通常の近接センサーは人の接近検出だけを目的としているが,もしセンサーが,静止した人の胸部の動きを選択的に捉えることができれば呼吸を検知できるのではないかと考え,検証を行なった。
すなわち,フィルム状近接センサーを畳ベッドの裏側に貼り付け,被験者が畳ベッド上に横たわった状態で,吸い込み3秒間,吐き出し3秒間の周期で呼吸をした。その結果,呼吸の周期に合わせてシグナルが変化しており,寝ている人の呼吸を的確に検出できると分かった。
研究グループでは次のステップとして,これらのセンサーから集めた測定データをもとに,事故や病気の予兆を捉える技術を確立していく。その足掛かりとして,島根大学医学部附属病院と関連技術について実証試験を行なう方向で検討を開始した。
現状,センサーからのデータは,大きなサイズの計測装置(約33×12×18cm3)につないで取得しているが,試験時の安全性や実用面を考慮してシステムの小型化と無線化の検討を行なっている。
また,構造最適化などでセンサーをさらに高感度化して心拍,脈拍の検出を目指すとともに,現状は単素子のセンサーを2次元的にアレイ化する技術を開発し,人の動きを3次元的に検出できる先進デバイスも開発していきたいとしている。
将来的には,これらの技術を完成させて,今後増加するであろう自宅での介護・見守りに向けて家庭内で運用できるシステムの構築に貢献していく。
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