理研,免疫応答に重要なT細胞の動きを制御する仕組みを解明

理化学研究所(理研)は,良質な抗体を長期に産生する免疫反応「胚中心反応」に必要なT細胞の動きが,リンパ節や脾臓などの免疫組織の中でどのように制御されているのかを明らかにした(プレスリリース)。

人間の体には,細菌やウイルスなどの外敵(抗原)に対抗するため,免疫応答が備わっている。体内に侵入した抗原を排除するためにB細胞が抗体を産生する反応もその1つ。さらに,B細胞はリンパ組織で見られるその局在領域である濾胞の中に作られる胚中心と呼ばれる場所で自らが作り出す抗体の性能を高め,抗原の再侵入に対して備える胚中心反応を起こす。

胚中心反応には,T細胞の一種である「濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)」の助けが必要。これまで,TFH細胞が移動して濾胞の中で行われるB細胞の胚中心反応に加わるためには,TFH細胞表面に発現しているケモカイン受容体「CXCR5」が重要であることが知られていた。

しかし,CXCR5を欠損した場合でもTFH細胞が胚中心から無くならない。このため,研究チームはケモカイン受容体以外にもTFH細胞の移動を制御する因子が存在すると考え,TFH細胞がどのように胚中心に局在するのか,また,胚中心TFH細胞が無くなった時にB細胞の反応がどう変化するのか調べた。

共同研究チームは,脂質から作られる生理活性因子「脂質メディエーター」の1つであるスフィンゴシン1リン酸(S1P)の受容体「S1PR2」に着目。遺伝子改変マウスを用いた実験の結果,S1PR2がCXCR5と協力して胚中心TFH細胞の移動を制御していることを発見した。

また,胚中心TFH細胞の存在が,胚中心の形成や維持に重要であることも示された。この成果を応用することで,将来的に,免疫細胞の組織内での動きの制御が可能になれば,より良い抗体の産生を目的としたワクチン療法の新規開発や改良が図れると期待できる。