理研,植物の細胞壁を構成する「リグノセルロース」の構造をNMRを用いて評価する手法を構築

理化学研究所は,植物の細胞壁を構成する「リグノセルロース」の構造を核磁気共鳴(NMR)法を用いて評価する手法を構築した。植物の幹や茎など食用に適さないバイオマス資源からエタノールなどの有用資源を生産する有力な手段となる。これは,理研環境資源科学研究センター環境代謝分析研究チームチームリーダーの菊地淳氏と大学院生リサーチ・アソシエイトの小松功典氏による研究成果。

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リグノセルロースは,陸上に最も豊富に存在するバイオマス。多糖のセルロースやヘミセルロースと,高分子化合物のリグニンで形成された高次構造かつ難溶性の高分子混合物で,その構造を解明できればバイオマス利用に有用な知識が得られると期待されている。しかし,構造の複雑さと溶媒への溶けにくさが,構造解析を困難にしていた。

研究チームは,炭素の安定同位体「13C」で標識したリグノセルロースを,タンパク質など生体高分子の構造解析に用いる多次元NMR法で解析した。その結果,新規を含む119シグナルを網羅的に同定することに成功した。さらに,今回得られたシグナルの周波数の違いである化学シフトを,固体試料のまま計測する固体NMR法における化学シフトと比較することで,溶液および固体状態での空間的な原子の配置(配座)の違いを検出することができた。この配座の違いは構成成分の物性の違いを反映しており,今後のバイオマス利用に非常に有用な知見といえる。

今回開発した技術は,さまざまな植物試料に適用できるほか,この研究で取得した化学シフトをデータベース化して利用することで,簡便に植物細胞壁の組成情報を得ることができる。また,固体NMR法などの周辺技術と組み合わせることで,さらなるリグノセルロースの構造の理解につながると期待できる。

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