月刊OPTRONICS 特集序文公開

モビリティを支える車載向けイメージセンサーのセーフティ&セキュリティ技術

1.はじめに
近年,自動車のAD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システムの技術が進展し,これまでドライバーが行っていた周辺の状況確認や障害物の有無の把握,加えて車室内の状態把握を車載システムが行うための「自動車の眼」となるセンサーが自動車にとって欠かせぬ存在となっている。

一般に,イメージセンサーの解像度が同一の場合,レンズ画角を広げるほど,撮影画像の単位面積あたりの解像度(情報量)が低下する。逆にレンズ画角を狭めれば,この単位面積あたりの解像度を高めることは可能だが,撮影できる範囲が狭くなる。単位面積当たりの解像度を落とさずにレンズ画角を広げる(撮影範囲を広げる)為には,高解像度のイメージセンサーが必要となる。

自動車の夜間走行において,周囲を認識するのに重要なのが周囲の明るさである。ヘッドライトの照らす範囲は当然進行方向のみであり照射範囲は十分に明るいが,照射範囲外は暗くそうしたヘッドライトの光が存在しない範囲を含めてそこに何があるかを認識する必要がある。自動車の周囲を常に監視しつづける役目を担うイメージセンサーが,低照度における高い感度性能を求められるのは,そういった「人の目に見えないような暗い環境でも確実に物体を検出するため」である。

また,太陽光の照りつける西日のような逆光を受けるシーンや,トンネルの出口のようにカメラの視野角の中に非常に明るい部分と非常に暗い部分が混在するようなシーンにおいても,自動車の周囲に見えていない部分があってはならないため,明るい部分も暗い部分も,常に同時に見えている必要がある。

近年,長寿命や省エネなどを背景に多く採用されているLEDを使用した信号機や標識などは,人間の目では感じられない速さで周期的に点滅しており,人間の目では常に点灯表示が認識できても,イメージセンサーではLEDの点滅を判別できるため,場合によってはチラつき(フリッカー)が発生し,表示が消えて信号表示が消灯しているように見えるケースがある。このような問題を解決する為には,発光周期よりもイメージセンサーの露光時間を長く設定すれば良いが,シーンによっては明るい部分が白飛びしてしまう問題が生じる。車載向けイメージセンサーには,LEDの発光周期よりも長い時間露光しても,白飛びを発生させない技術が採用されており,チラつき(フリッカー)のない高品質な映像信号を得ることができる。

世界中のあらゆる地域,環境下で走行する自動車に求められる信頼性は非常に重要な要素である。夏は車内外が非常に高温になるため,車載向けは非常に広い温度範囲(少なくとも–40℃~125℃まで)での動作が求められる。一般的には温度が上がるとイメージセンサーはノイズが増えるが,車載向けイメージセンサーには高い温度下でも低ノイズでの撮像が必要である。

ここまでに述べてきたような,高解像度・高感度・ハイダイナミックレンジ・LED対応などのイメージセンサー本来の性能に加え,車載向けとしては安全性の確保につながる品質への対応も重要な要求事項の一つである。自動車業界では製品開発プロセスに関する国際規格も多数存在し,製品そのものの性能だけでなく開発プロセスも業界標準に沿って作りこみ,開発時の各種エビデンスを使って製品開発フローの正当性を証明し,お客様からのアセスメントや監査を通して信頼されるサプライヤーとしてのポジションを築いていくことも重要である。本稿では,代表的なセーフティとサイバーセキュリティへの取り組みについて紹介する。

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