子供の頃は,風呂なんて好きではなかった。それなのに,今ではどうだろう。どんなに暑い日でも,シャワーではなく風呂に入りたい。湯船に入るときには「ふぅー」とか「はぁー」とか声を出し,心の中で「いやいやいや…」と訳の分からないことを呟きながら,地獄谷野猿公苑の猿のようにだらしなく弛緩するのだ。
湯に浸かることはもちろん楽しみだが,風呂には別の楽しみもある。何しろ,風呂場というのは家の中で唯一,水を自由に扱うことができる場所なのだ。さすがに,いまさらお湯をバチャバチャと飛ばして遊ぶようなことをするわけではない。
僕の楽しみは,風呂場の中で水が作り出す光の景色をじっと見ていることだ。例えば,水を貼った浴槽の底面に現れる,ゆらゆらと揺れるさざ波のようなパターンを見ているだけで飽きることがない。
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